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~ 話、そんなにそらしたいならキスしてよ。 ~
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 ■第3話 旅立ち
 
3人が馬車の後ろに乗り込みゆられている。
長身の黒装束の男が一人。背が低めの黒マントに黒帽子の女が一人。
そしてジーンズにTシャツの、勇者と名乗る男が一人だった。
『んで、これからどこ行くんだ?』
『そーそー。ユウんちで会議する予定で村に立ち寄ったのにさぁ、結局一晩中・・・
  なんでもない。』
自分で言いかけておきながら、真っ赤になった顔を黒帽子で隠す。
『うん、俺が今考えているのが3つある。』
『へー、3つもとはなかなかアイデアマンだな。』
黒マントの女はまだ顔を隠したまま会話には混ざらない。
『まず、一つ目。悟りの書だ。これは言わずと知れた賢者への道だ。』
『なるほど、賢者ね。そだよなー、ウチは勇者しか回復魔法使えないもんな。』
『ああ。先を目指すなら必ず取得しておくべきアイテムだな。
  当然、お前を賢者に成長させたい・・・だからいい加減顔上げろコラ!
  お前の話だろが!』
『いやん!』
強引に黒帽子をはぎ取る。
赤くなったニヤケ面がそこにはあった。
『なに妄想してんだこのスケベ!ちゃんと会議に混ざれ!』
『は~い↓』
こほん、と咳払いする勇者。
『うむ。次に二つ目。これがザオラルの伝説だ。』
『死者蘇生のこと?それって実話なのかな?』
『死人は生き返らないとおれは思うけどなぁ。』
『うん、確かに眉唾な話だけど、伝説上は存在している。勇者だけが得ることのできる
  かなり信憑性の高い情報の中にも、やはり存在している。』
『でも、もし手に入るんならさ、相当戦略に幅が広がるよね。』
『その通りだ。んでこの情報を持っている老人の居場所がようやくわかったんだ。
  まぁザオラルはあることはある、と俺は思っている。
  しかしその発動条件、成功確率、副作用なんかがあまりにも不透明なのが現状だ。
  実用性がどこまであるかは甚だ疑問。
  ま、「あるならあった方がいいよね」って感じかな。』
『なるほど、確かにそんな感じだな。三つ目は?』
『三つ目は・・・北の魔女。』
『おお?魔女。こりゃまた古風なネーミングだな。』
『でもある意味わたしも魔女じゃない?』
『確かにな。でも魔女ってもっと怖いイメージがあるよな。
  お前はすげーかわいいし。』
『・・・もぅ』
また帽子を深くかぶる。
『いやほんと。なかなかお前よりかわいいこなんて・・・』
『あのさ、話続けていいか?』
戦慄。
負のオーラが馬車を包む。
ひひーん。と鳴き声が響く。
馬車をひく馬にまで、勇者たるものの殺気が届いたようだ。
(まずい。話の時の腰を折るとこいつは素で怒る・・・)
(こわ!ちょっと、もう静かにしないとやばいよ・・・)
二人ともぴんと背筋を伸ばし正座の姿勢をとって身構え、真面目に聞く態度をとる。
その態度に満足したのか、ユウは殺気を半分程度に抑えて話を続ける。
『北の国ではもう大事件と言っていいほどの殺人事件が毎日起きてるらしい。
  魔女に出会ったすべての人間が必ず殺されているそうだ。』
『すべて?んじゃどーやって魔女に殺されたってわかったの?』
真剣に聞いてることをアピールするため、積極的に質問を考え発言する。
『遠目に見ていた人がいたらしい。だからどうやって殺したかとか、
  細かいところは何もわかっていないようだ。
  目撃者の証言は、ただ、「白い少女」だったと。』
『要するに何もわからんってことね』
『もうひとつ情報としては、毎日の殺人で、必ず4,5人ずつ消えていくのだそうだ。』
『え、なんでなの!?』
食い付きを見せることで真剣さをアピールする黒帽子。
そのわざとらしい真顔に「やりすぎだ」と肘でつんつんと注意する黒装束。
ばれると余計怒られる。
『わからない。ただ、事件が始まるようになって6人以上で行動するように対策をとったそうだ。
  そうすると、6人以上で行動している間は絶対大丈夫なんだそうだ。』
『じゃー、殺されるのはそのグループからはぐれたりしたときとかってこと?』
『そうみたいだな。まぁ、なにぶん遠くの国の情報だからな。あやふやなことが多くて困る。
  実際のところは行ってみないとわからないだろう。』
『ふーん、あ、まぁ6人以上ってことは俺らは3人だから巡り合えるかもな。』
お、この発言は自然な流れで好感度上げる質問できたな。我ながらナイス。
『なるほど。それが三つ目かぁ。んでどれから行くの?』
『うん、まず悟りの書。これは手に入れることが困難な上、手に入れてもある一定のレベルに
  ならなければ使えない。ザオラルも、もし呪文の詳細が判明したとして、使えるのは俺か、
  賢者にした後のお前ってことになるが・・・どちらにしろ、これだけの大呪文だ。
  まだレベルが足りないとみていいだろう。』
『おし、つまり魔女を倒しながらまずはレベル上げってことだな!?』
『その通りだ。』
『よーし、んじゃー行こう行こう!!あたし雪見たことないから北の国楽しみ!』
『そうそう!俺も無いんだよ!早くいきてー!』
『無いのかよお前ら。これだから南の育ちは・・。ホント真面目に聞くふりだけして
  結局雪見たいだけかよ。まぁよい。では進路決定だ』
ユウは御者に指示を出し、一行は北の国へ向かう。
 
 
ぱちっ。
黒装束の男は目を覚ました。
何やら眩しい。天気がいいからか?いやそれだけではない。
何か見たことの無い景色が見える。
『ん!これは、まさかこれが!!』
騒がしさに目を覚ます他の二人。
『むぅ・・・なぁにぃ?』
『ん?もちょい静かに起きろよ・・・ん?』
二人の目に入ったのは立ち上がった黒装束の男。
『うおおおお!』
彼は突然馬車からダイブする。
『!?』
二人の驚きようといったらない。
ずぶっ。
彼は雪の中に人型を作るように埋まった。
『うおおおお!!冷たてー!!冷たすぎる!!おい!みんな来いよ!!
  雪だぞ!?これが雪だーー!!!』
はーっとため息をつき肩を落とす勇者。
これが信頼のおける自分の片腕かと思うと自信がなくなってくる。
『今行く!』
『へ?』
プールにでも飛び込むようなポーズでもう一方の片腕も馬車から飛んで行った。
『おいおい』
激しい勢いで飛ぶもんだから、マントの下が勇者から丸見えになっていた。
『・・・ってゆーか、あのマントの下はブラとパンツだけだったのかよ。
  ちょっと欲情しちまうじゃねーか。』
昨日一生分かと思うくらい出したはずなのに我ながらまだまだ青いと反省しながら、
馬車をとめてもらい、無邪気な仲間たちを眺める。
武闘家特有のスピードによりあっという間に雪だるまが完成され、
遊びは雪合戦に移行している。
黒装束の超速の雪玉を、黒帽子のメラでキャンセルする。
なかなかハイレベルな攻防だ。
・・・。
しかしながら、5分もたたないうちに、二人ともふるえながら戻ってきた。
そりゃーあんな北国舐めた格好じゃあな。
ユウは馬車においてある防寒具を着始める。
『お前ら、黒装束と黒マントがトレードマークかもしれんが、この寒さだ。
  ちゃんと防寒具は付けろよ。これは命令だ。』
『ぐっ、いやこの装束はわが一族に伝わる由緒正しき・・・』
『命令だ』
『はい・・・。』
でかい体を小さくして命令に従う。
しぶしぶ置いてあるコートの中からできるだけ黒いものを探す。
あっちの黒マントはと言えば、器用にマントを着たままマントの下に防寒具を着始めていた。
しかしながら、たとえマントで隠れていようとも、女性の着替えというのは
なんとも情欲をそそるものだ。
先ほど中身をはっきり見ているために想像力も豊かになる。
『お?あれ?ユウ。興味ある~?やっぱ少女より大人の女のがいいでしょ^^』
軽くセクシーっぽいポーズをとる。
『え?いやどちらかというとお前は少女っぽ・・・』
『それは言うな・・・!』
小声で台詞を止められた。俺は言葉をさえぎられるのが一番不愉快なのに。
『そしてあいつの着替えを見るな。俺のだ。』
くそっ、別にそこまで見たいわけじゃないのに、なんだこの扱いは!
俺は勇者だぞ!リーダーだぞ!管理者だぞ!
 
 
全員の防寒装備が完了した。
『ん、ココはもう北の国の中だな。寝てる間に国境は超えてくれたようだ。
  では後はもう歩いて行けるな。』
御者に賃金を払い、馬車は立ち去っていく。
『おおー。雪の道を歩くなんて斬新だなぁ。でも辛いのかと思ってたけど、
  楽しいだけじゃないか?』
『今日は天気がいいからな。山ん中で吹雪いちまったら地獄だぜ?バラモスが可愛く見えるさ』
ぴたっ。軽い足取りでるんるんと先頭をあるいていた男が突如止まった。
『ん?・・・君、どうしたの?』
2番目にあるいている彼女の帽子が男の背中にこつんとあたる。
彼はいつになく真剣な表情だった。
『なぁ、ユウ。例の魔女・・・あれは「白い少女」って言われてたっけ?』
『ああ。・・・まさかいたのか?』
彼の見ている先を目を凝らす。何も見つからない。
『見えないか?俺は目が利くからな。これは・・・間違いないぜ。
  例の犯人だ。』
まれにみる真剣な表情で彼は言い切った。
『何故言い切れる?』
『まずは外見。あれを見たら誰だって白い少女っていうだろうよ。
  んで、それは大した話じゃなくて・・・とりあえずユウも見れば誰だってわかるさ。
  あれは普通じゃない。』
『そうか。わかった。向こうはこっちに気づいているか?』
『まだみたいだな』
『よし、少し距離を詰めよう。』
3人で自然に道なりに歩いて行く。
道は緩い坂になっていって、少女の方に向かって少しずつ登っていく。
『…俺にも見えたよ。』
『わたしも』
確かに、「普通」じゃない。
まだそれ以上は表現できない。
ただその雰囲気が只者ではないことだけは確かだった。
美しい銀髪に白い肌。白い帽子に白いコート。
確かに白い少女だ。
少女はこちらからみて右方向に体を向けている姿勢であるため、
まだこちらは視界に入っていないだろう。
『どうする、ユウ』
『まだ様子を見たい。あまりにも情報が少なすぎる。もう少しだけこのまま近づく。』
『了解』『了解』
ふいに少女は顔をあげた。
そして、それは何の気は無しにした行動だろう。
くいっとこちらに顔を向けた。
目が合った。
どくん。
3人が3人とも、全身に圧倒的威圧を感じ、悪寒が走り、電流が流れた。
『こ、これって…』
『これは…』
これは殺気だ。
「必ず殺す」という意思だ。
3人とも修羅場という修羅場はくぐってきている。
殺すつもりで殺した人間も見てきた。その人間に殺された人間も見てきた。
殺すつもりの人間の攻撃を受けたことも、殺すつもりで殺したことも経験してきた。
故に殺気というものははっきりとわかる。
これは殺気。
それも恐ろしく強い、必ず殺すという覚悟の表れ。
しかし本当に恐ろしいのはそこでは無い。
本当に恐ろしいのはほんの1秒前は殺気がまるで感じられなかったという事実だ。
彼女はこちらを振り向くまで、殺気が無かった。
つまり、殺す気が無かった。
こちらを振り向いてから我々を視認して殺気を放つまで0.1秒もなかった。
その間に我々が敵かなんなのか、判断する時間なんてあるわけがない。
つまりはこういうことだ。
『あいつは…目に入ったすべての者を殺すと、最初から決めているんだ。』
 
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