~ 話、そんなにそらしたいならキスしてよ。 ~
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■第5話 対話
あたり一面真っ白な雪原の中の少し丘になっている場所に、その宿屋はあった。 こんな場所には利用客もまれにしか来ないようで、本日の客はこの3人だけだった。
おかげで貸し切り状態の宿屋では、通された部屋もこの宿一番のVIPルームだ。
『ちょ・・・これ、わたし広すぎてなんか落ち着かないんだけど。』
なんてことを言いつつ、全力でどでかいソファーに向かってジャンプした。
勢いあまってとんがり帽子が吹っ飛んでいく。
『すごっ!ふかふかー!』
上機嫌だ。
『おいおい、せめて荷物くらい整理してからにしろよな。』
『はーい。んじゃ荷物置いてくる!あっちあたしの部屋ね!!』
上機嫌だ。
・・・尊敬できる。
やはりこの女を選んでよかった。
『恋人が死んだ直後』にこれだけ明るくふるまえる精神力。
内心、不安でたまらないだろう。
俺はあらかじめ伝えている。
ザオラルの情報は不透明だと。
どこまで実用性があるか不明だと。
しかし、それでもそんなことを現時点で考えても何も始まらない。
やるべきことは、『可能性に賭けて行動すること』であり、『落ち込むこと』ではない。
そのために今できるとは、ゆっくりと休息をとり元気になることだ。
・・・そんなたぐいのことはいつも俺が言っていることだ。
理屈ではもちろん彼女はわかっている。
しかし理屈でわかっていてもできないのが、人間というものだ。
それが理屈に従ってここまでできる彼女を、俺は尊敬する。
そしてそれに報いるために、必ず生き返らせる。必ず。
バタン。
元気よく扉が閉められて向こうの部屋へはいって行った。
『・・・さて、ようやく落ち着いて話が聞けるな。』
そう言って目の前にいるさるぐつわをされた白い少女に話しかける。
『・・・』
当然のごとく、無言の上目使いでこちらを見上げる。
『まぁ、すわりなよ。』
自分も腰かけながら隣の椅子を指差す。
彼女は、意外にも素直に椅子に座る。
『さっきから言っているが・・・俺はお前の考え方を知りたいんだ。
この村での大量虐殺は、お前のザキによるものなのだろう?
それは何を考えての行動なのか。それを教えてくれないか?
お前はどうやら言葉は不自由なようだが、字はかけるか?』
宿屋に備え付けのペンと紙を差し出す。
一瞬紙をじっと見つめて動きがとまる。
再度ユウを見上げる。
『まずは俺の目的を話そうか。』
ユウは真面目な表情でゆっくりと語りだす。
『俺は、世界を・・・何とかしたい。
まずは理想を言えば、無理とはわかっていても、全ての人が幸せである世界がいい。
だからまずはそれを考えていく。
それで無理なら、できるだけ多くの人を。
そのために、どんな方法があるのか、どれがいいのか、それは現時点の俺ではまだわからない。
もちろん、現在進行形で日々考えている。
いろいろな情報を集め、様々なやり方を見聞きし、検討している。
世界をどう変えるべきなのかは、まだわからない。
わかっているのは、どんな方法にしろ、『力』が必要だということだ。
暴力に屈さないだけの『暴力』と、
金に潰されないだけの『財力』と、
他の追随を許さない圧倒的『カリスマ』。
これは、方法論を問わず、絶対的に必要だ。
俺はまずこれを手に入れるために、行動している。』
少女はユウを見上げたまま動かない。
その表情は、興味を持ったようにも、ただ眺めているだけのようにも受け取れる。
『教えてくれ。お前のことを知りたい。』
『・・・』
勇者の何かが彼女を動かしたのか、少女は左手の手袋をはずす。
そしてペンを握り文字を書き始めた。
お世辞にもうまい字とは言えなかった。
おそらく、あまり教育も受けれていないのだろう。
下手どころかところどころ鏡文字になっている字もあり、それは4、5歳の子供の文字だった。
彼女は書き終わり、ユウの方にずいっと紙を差し出した。
そこにはこう書いてあった。
「世界中の全ての人を、楽にしてあげる」
ユウは彼女を見つめる。
それは本音だ。
本心から思っている。
どんな経緯でそこに至ったかは知らない。
ただ彼女は、それが解決策だと考えている。
だからこそ、ザキの絶対条件、「人の幸せを願う者」を満たしているのだ。
だからこそ、これだけザキを使ってもザキを使えるのだ。
『おまたせー。あれ、何?ひょってしてまさかもうわかりあえちゃったの?』
『うーん、まだこれからだな。今はちょうど一歩目を踏み込めたところだよ。』
少女はまだ続きを言いたいのか紙をもう一度引き寄せ、不器用そうにペンをとる。
しかしペンを持つこと自体慣れないのか、ぎこちない動きで床に落としてしまった。
『ああ、字を書くのに慣れてないんだろ?ごめんな、無理を・・・』
彼女が外していたのは左手の手袋だ。
右手はそのままだ。
何故右手は外さなかったのか。
左利きだから?
左利きでも、普通は両手を外した方が書きやすい。
確かに極寒の外から帰ってまだ間もない。
手が冷たかったというのは一理ある。
字がへた?
鏡文字?
ユウがペンを拾おうと、かがんで床に手を伸ばす。
その下がった頭に合わせて彼女の手刀が飛ぶ!
ユウは未反応。
外から見ていた魔法使いはソレに気づいた。
(あ、あれは手刀じゃない!)
手袋の中に隠し武器。
そう、彼女はどの状況からでも「人の幸せを願って」いたのだ。
右の手袋の中から伸びた果物ナイフがユウの右眼球を直撃する!
と思われたその刃を、ユウは間一髪回避する。
が、かわしきれず、ユウの右耳を半分削ぎ落していた。
ユウはそのまま右腕をとり少女の背中にまわし、ナイフを奪いつつ逆間接を決める。
ごきっ!
右肩の関節を外した。
『あああああ!!っっっ!!』
どっ!
少女の悲鳴をかき消すように、少女の腹を蹴りあげ壁に押し付ける。
どんっという音とともに壁に張り付き、少女は左腕を壁側に上げて、外れた右腕がだらりと
下にさがっている状態になった。
そのままがくんと崩れそうになるスキを逃さない。
ユウはその左手に向かい躊躇いなく、なんと果物ナイフを突き刺した。
果物ナイフは、左手の手のひらを貫通し、壁に突き刺さり固定される。
『ぃぃああああ!!!!ぁぁ!!!!!!!!!』
さるぐつわなどものともせずに、声にならない叫びが部屋中に響く。
ほとんど意識を失いかけた少女はがくっと膝が折れる。
しかし打ちつけられたその左手が、倒れることさえ許さない。
『!!!!!』
自分の体重にひっぱられた彼女の手のひらの苦痛は、もう声では表現できるものではなかった。
生気を失ったように顔は下をうつむき、
右腕はだらりと下げさせられ、
右腕を上げさせられる少女。
ユウはそんな彼女の顔を掴み、力いっぱい壁に叩きつけ、そして叫ぶ。
『認めろ!!お前は弱い!俺一人殺せないお前の力では、世界の全ては殺せない!』
『!』
初めて反応した。
今まで何の言葉にも反応しなかった少女が、初めてユウの暴力にではなく言葉に反応した。
『俺は必ず手に入れる!絶対的な、暴力と!財力と!カリスマを!
お前に足りない全てを、俺が手に入れてやる!
その時に、何をなすべきかはまだ分からない。
お前のやり方で、全ての人を楽にするのがいいのかもしれない。
民主的なやり方がよいのか、恐怖による完全統治がよいのか、
それともまったく新しい何らかの政策があるのか。
それは現時点ではまだ分からない。だから・・・』
少女は苦痛をこらえ、真剣に話を聞いていた。
『だからそれまで・・・俺といっしょに考えていかないか?
どうしたら人が幸せになれるのかを。』
じっと見つめる。
強い、瞳で。
絶対の自信と覚悟。
物言わぬ少女は、その瞳に何を想ったのか。
少女はただ見つめ返していた。
一瞬前の苦痛に悶えている弱い瞳ではなく、
彼に負けぬほどの強い瞳で。
『俺と、いっしょに行こう。』
『・・・』
少女はこくんとうなずいた。
『ホント、もう、ここまでやんなきゃだめだったわけ~?』
黒帽子を脱いだ黒マントの女は一安心しつつも不満そうな声を上げながら後片付けをしている。
『無理だったんだよ。俺こんなんに・・・あ!それ俺の耳!捨てんな!』
『え!?きもっ!ちょっと、こんなん触らせないでよ!!・・・』
『ったく、そこおいとけよ。あとでくっつけるんだから。まずはコイツのが先だな』
ナイフを強引に外す。
『・・・・!!!』
戦闘が終わり、気が抜けていたのか。
その表情は先ほどまでの狂犬の表情とは異なり、
まるでよわよわしい子猫や子ウサギのそれだった。
『ホイミ』
ユウは優しく左手の手のひらに添える。
止めどなく流れていた赤い濁流が、すーっと止血される。
まだ傷口は完全には治っていないが、直ぐに回復個所を右肩に変える。
折れた肩関節が元に戻った。
『これでよし。他の傷は大したことはないだろう。
べホイミを使えば完全になおるだろうが、あんまし回復魔法ってのは体に良くないからな。
自然回復する力を弱めちまう。
これからも戦闘中にどうしても使わなきゃならないことはあるしさ。
できるだけ節約しないとな。
しばらくかなり痛むだろうけど、がまんできるか?』
『・・・(こくん)』
かなり戸惑ったように、ぎこちなくうなずく。
がまんできるかどうかで戸惑ったわけではない。
回復魔法を節約することに対する疑問ではない。
ただ、彼女はホイミをかけられたことが初めてだったのだ。
『よし、偉い子だ。』
ユウはそういってさるぐつわを外し始める。
散らばった椅子なんかを戻していた黒マントはびくっと反応する。
(だ、大丈夫かな?今日三度だよ、三度。
銃で脅して大丈夫と思ったらザキ。
マホトラでMP無くして大丈夫と思ってもザキ。
さるぐつわして大丈夫と思っても隠し武器。
・・・ううん。ユウについていく覚悟はとっくに決めたんだし。
ユウもそのリスクをわかった上で、「わかりあえたと信じたい」んだろうし。
・・・もう、鬼のくせに甘いんだから。) さるぐつわを外された少女は、意外そうな表情をする。
『さっき、俺の台詞にうなずいてくれたけど・・・』
と、ユウは話し出す。
『これは、大事な始まりだから。だから、ちゃんと、お前の言葉で聞きたいな。』
『・・・』
『ザキやマホトラは言えただろ?だったら声を出せないってわけじゃないはずだ。
複雑な生い立ちはあるのかもしれないが・・・これからずっと一緒にがんばってくんだ。
少しずつしゃべれるようになった方が楽しいぜ?
まずは・・・「うん」と「ううん」くらいは言えるようになってみるか。
コミュニケーションは大事だからな。できるか?』
『・・・』
少女は困ったように微妙な角度に首をかしげる。
無理というわけじゃないけどできるとはいえないといったような角度で。
『じゃー、やってみよう。これから、大事なことを言うから、ちゃんと返事をしてね。』
『・・・(こくん)』
少女は素直にうなずいた。
『お前ほどの女は初めてだ。こんな精神量をもった器は。
俺は今日一日で、お前から本当に多くのことを学んだ。
感謝してもし足りない。
今度は俺が、おまえに返したい。
だから・・・』
『だから俺の女になれ』 『!?』
(!?)
空気を読んだ女魔法使いは音もなく、ぴゅーーーっと隣の部屋へ消えうせた。
(なんであたしがいるってわかってんのに告白すんのよ!
せめて二人のときにしなさいよ!
ってゆーか・・・マジで?
あのコ何歳?16,7?下手したらもっと若いかも。
・・・やっぱりロ・・ロリコン・・・?
ええー!?あんな子供と、や・・・やる気なの彼は!!
こわっ!!こわっ!!
確かに顔はすっごく可愛いけど!すっごく可愛いけど!!
でもあと5年は育てたい感じじゃない!?
でもそんなにユウが待つとは思えないし待つわけないし・・・下手したら今日中に??
・・・ああああーー!君こんなときに何死んでんのよー!!
不安だよー!ロリコンと一緒にいるの不安だよー!!
あああ、大丈夫だったかな、アイツについてくって賭けて良かったのかな?
うあああーー、早く生き返ってー! 一人じゃ自信なーい!)
少女はよく状況が飲み込めないのか、頭の上にクエスチョンマークが浮いているようになっている。
『もっとわかりやすく言おうか。
好きだ。だから一生俺の隣にいてほしい。』
『・・・』
よーく見なければわからない。
が、よーく見ると、ほんのわずかにその白い頬に赤みがさしていた。
勇者たるもの、その変化は見逃さない。 (よ、よし、効いている!)
『どうした?俺は本気なんだ。本気の想いに、返事もなしか?』
『・・・ぅ~・・・』
かすかにもじもじしている少女。
『10秒待つ。それまでに返事をできなければ、この話は無しだ。』
『っ!?』
『最後だ。もう一度言う。
俺の・・・永遠の恋人になってください。』
『!』
もう良く見なくとも、桃色のほっぺたになっていた。
『8・・・7・・・』
『!!!』
ユウは強く見つめる。
少女はもう真っ赤だ。
そして焦りも見える。
『6・・・5・・・』
何かのチャンスが失われようとしている。
しかしそれを得ることが本当にチャンスなのか絶望なのか、判断できない。
判断する時間さえない。貰えない。
『4・・・』
どうしていいかわからなくなってくる。
ただ・・・今まで私に愛を語ってくれた人なんて・・・
『3・・・』
そしてそれよりも・・・「私と同じ願い」を持つ人。
違いは「やり方」だけ・・・。
『2・・・』
もし「殺す」以外のやり方が見つかるならば・・・。
それを「一緒に考えていく」人がいるならば・・・。
『1・・・』
彼女は一歩前に出た。
『・・・はい。』 そういってユウの胸に飛びついた。 PR ■第4話 出会い
ユウは呟いた。
『興味をそそる。一体「アレ」はどんなプロセスを歩んであの殺気を抱くに至ったか。
どんな思想を抱くに至ったか。その背景にある物語に、俺は興味がある。』
二人は少女の殺気を受けて警戒態勢をとる。
即動けるよう精神を集中させ、勇者からの絶対命令を静かに待つ。
その瞬間、二人の背後から圧倒的殺気が放たれた。
まるで恐怖が突風となって吹いたかのような感覚に、思わず二人も振り返る。
あの少女の殺気を相殺できるほどの、勝るとも劣らない膨大な精神量。
その殺気はむろん、我らが勇者のそれだった。
勇者は下を向き、前髪で顔が隠れているため目元は見えないが、口元は確実に笑っていた。
『殺せ。』
『おう!』『おう!』
命令が発せられると同時に、二人は全力で飛び出していった。
黒装束改め黒コートの男は右前方に。
黒帽子の女は左前方に。
後方にいる勇者を起点としてV字型の布陣。
この型こそ、このパーティの基本戦術にして必勝の構図であった。
『キングとはむやみに動かないもんだ。冷静に全体を把握し、的確な指示をし、
回復などのフォローにまわる。王が前にでるような組織では・・・最後には決して勝てないよ。』
冷静に戦局を見渡す。少女はゆっくりこちらに歩を進めるだけで、まだ何もして来ない。
『能力の未知数の相手には、まずは先手を取っての最大攻撃。』
右前方から疾風の如く少女に迫る黒コートの男。
フェイントも何もなく、ただ速過ぎるその速度で直進する。
(『殺せ』って命令、か。ユウはあのコに対し「興味がある」と言った。
できれば生け捕りにしたいはず。その上での殺せという指示。
ユウの目から見てもそのレベルだってことだ。
相手の命を惜しんでは・・・こっちがヤバイ。)
目で追い切れないほどの速度で少女との距離が詰まっていく。
少女はまだ歩いているだけ。少女の間合いまではまだ遠い。
少女は獲物がその間合いに入るまでただ待っている。。。
『ギラ!』
左前方から少女の周りに向け熱線が発射された。。
『!?』
直接は少女に当たっていない。が、目の前の雪にぶつかり大量の湯気が発生する。
少女の動きが止まった。
『うん、この目くらましでヤツは二人を見失ったろう。
後はウチの忍者クンが間合いを詰めれば終わりだが・・果たして?』
少女は湯気を払い、周りを確認する。
瞬間、目の前に黒い長身の男が現れた。
反射的に少女は両腕を大きく振り上げ上段をガードする。
(甘い!ボディがガラ空きだぜ!)
痛烈なボディブローが少女の脇腹にヒットする。
そのまま10数メートルは吹っ飛ばされ、雪上をごろごろと転がりうつぶせに倒れた。
腹のダメージのため、げほっげほっと咳き込み苦しんでいる。
『?・・・あの娘・・・ガードが不自然か? 顔だけ守ったような・・・。
アイツにワザとボディを打たせた?』
黒コートの男は手を緩めることなく、即座に少女に向かって突撃を再開する。
(ココで手を緩めて何度ユウに叱られたことか。)
少女のダメージは大きい。
必死で片腕をつき起き上がろうとしつつ、呼吸を整えようとする。
視線の先に再び向かってくる黒い影が見える。
呼吸はまだ整わない。
(・・・ラリホー)
『ぐっ・・・これは・・・ラリホーか』
強制睡眠魔法。
しかし彼ほどの使い手が完全に眠りにおちることはほとんどない。
よくて数秒、動きを鈍らせる程度だろう。
しかし戦場での数秒は、体勢を整えるのには充分な時間だ。
『あいつの動きが止まった・・・?何だ?ラリホーか・・・?
あのボディを食らった直後に詠唱したのか! なんて奴だ。』
『メラ!』
左前方から、少女めがけて炎の球が飛び出す。
今度は目くらましではない、直接ダメージを狙ったものだ。
ドン。ちょうど立ち上がった少女の右半身に直撃する。
直撃の衝撃で一瞬よろける少女。
しかし何事もなかったように、黒コートの男の方を見つめる。
メラが発せられた方角を振り返ることさえしない。
『き、効いてないの?』
『効いていないのか・・。特殊な呪詛で編まれた宝具でもまとっているのか?
いや、違うな。右腕も髪も明らかに燃えている。肌もただれている。
ははっ。あれはただ・・・己の肉体の破損に興味が無いのだ!
・・・これは、相当ヤバいな。』
奴の次の行動。
相手の攻撃を防御を考えず受けきった後に来るのは当然、・・・最強の攻撃。
逆にいえば・・・それを受けきれば勝てる。
ユウは右腕に魔力を溜める。これから攻撃されるであろうアイツへかけるための
べホイミの準備だ。
『これがこの陣形の強み。戦況を把握でき、敵・味方の状態を管理し、回復のフォローも容易。
ふふ・・・さて、ついに奴の切り札が見れるな。一体どんな攻撃魔法か。』
少女は右半身に炎をまとったまま、視界に黒コートをとらえる。
彼は既にラリホーの呪いをほぼ解除していた。
『こんなん、足止めにもならなかったぜ!』
再び全力で少女に迫る。
少女の呼吸は・・・整った。
『悪く思うな!』
黒コートの男は少女の眼前に迫り、こぶしを振り上げる。
勇者は手をかざしベホイミの構えをとる。
少女は一言呟いた。
『・・・ザキ。』
どさささー。
勢いのあまり黒いコートの男は何度も回転しながら少女の横を通り過ぎていき、
うつぶせに倒れ、二度と動くことはなかった。
『え?』『え?』
二人はこの意外すぎる結末に言葉を失う。
『な・・・に? なんだ?死んだ?そんなまさか。
ザキ?よく聞こえなかったな。ザキだと?そんな・・・マズい!』
『え・・・、死んだ?即死する魔法?そんなの聞いたことない!
それよりも・・・今のは魔法?そんなはずない!
いや、絶対おかしい!魔法じゃない。「タメが無い」なんてありえない!』
少女は、死体となった男に目線さえやらず、ぐるりと魔法使いの方に首を向けた。
『ギラ!』
黒帽子の女からの閃光が再び少女を襲う。
『よし、よく反応した!それでいい!』
ユウから黒帽子への激励が飛ぶ。
「動揺」から「攻撃」までの切り替えの速度。
これはジャンルを問わず、全ての業界において奥義となりうるのだ。
彼女の放ったギラは、少女を取り囲むようにもえさかる。
『当たった・・・でもこの後はどうしたら・・・』
ばっと勢いよく炎の中から白い塊が飛び出してきた。
炎を避けるでも消すでもなく、炎をまとったまま直線的に炎の中を通り
敵に向かって走ってきたのだ。
少女と魔法使いの目が合った。
(まずい、間に合わない!)
死を覚悟しながらも呪文を唱える。
『ギ・・・』
『ザ・・・ぐっ!』
『そこまでだ。』
さっそうと現れた男。
この土壇場で現れることができる。
これこそがまさに勇者の資質の証明だった。
あの呪文が普通ではないと認識した瞬間、一気に間合いを詰めにいった。
ユウは左手で少女の喉を鷲掴みにし、少女の足が浮くほどに持ち上げている。
『ぐ・・・げほっ』
苦しそうにもがく少女。しかしこうなってしまっては、少女のパワーでは勝負にもならない。
勇者が後ろを振り返りもせずに親指を立てる。
ココはまかせろというサインだろう。
『助かった・・・ありがと。』
そういっておそらくは死んでしまったであろう恋人の元へ走っていく。
『ふふ。キング自らが動くことも時には必要。俺自身が最強の兵でもあるが故に、
この布陣は完成しているんだ。
・・・だが俺という切り札までつかわせたお前はすげーよ。初見から興味を持っていた。
その殺気、その容姿、その呪文。
そしてお前の哲学。』
少女はただ苦しそうにもがいている。
ユウはそんな少女の喉をつかんで持ち上げたまま、しばらくじーっと眺める。
アルカイックスマイルを浮かべながら。
『お前の考えを話してもらいたいのは山々だが・・・この手を離すと例の呪文が来る・・・か。』
『あいつ・・・やっぱり死んでたよ。』
黒帽子が黒コートを担いで戻ってきた。
『・・・そうか。』
周りの空気が重くなる。
彼女はいつになく重い、真剣な表情で口を開いた。
『もう状況が変わったよ。「あるならあった方がいいよね」なんて、絶対言わせない。』
その表情には覚悟があった。
決意。そして不安と信頼。
複雑な心境を押さえつけ、ただユウの返答を待つ。
『当然だ。この件が片付いたら次はザオラルだ。必ず手に入れる。』
がくっと緊張が弛緩し、黒いとんがり帽子がずるっとずれる。
『・・・そかぁ。良かったぁ。なんか安心して力抜けちゃった。
ユウのこと理解してるし信じてるんだけど・・・ユウは本当の鬼だからさ。
もしもアイツのこと見切られたらどうしようって・・・思っちゃったんだ。
わたし最低だね。本当にごめん。』
『それでいい。人を疑うのは悪くない。勝手に信じて裏切られたということの方が
悪いに決まってる。自分の意思で、ちゃんと考えるんだ。』
『うん、ありがと。』
そうお礼を言って下を向く。
数秒間その体制のままじっと動かない。
数秒後、ぱっと顔をあげる。
『うん、考えた。覚悟ができたよ。
ユウがどんな人間でも、裏切られたとは思わない。ただ私がユウに賭けただけだから。
ユウに賭ける覚悟ができた。
・・・私たちは、ずっとユウについてくよ。』
ユウは迷うことなく返答する。
『まかせろ。』
こんな戦場での、まだ戦闘中のいっときにもかかわらず、
このパーティにとって最大の契約が成立した。
何物にも代えがたい、永久に続く無償の信頼。
そう無償の信頼。
人間の心を持っていては絶対にありえない、対価を求めない永遠の忠誠。
これ以上に尊いものなど。これ以上に狂ったものなど。
他にあるのだろうか。
『あはは。まかせろ、かぁ。かっこいーもんだね^^
てゆかコイツどーしよっか?
ザオラル手に入れるまで時間かかるだろうし。それまでもってけないよね?
こいつでかいし。』
『ああ、そこに埋めといてくれ。ココの土地は半年は雪が解けない。
腐ることもないだろう。うん、そこに宿屋があるな。目印になる。
場所がわからなくなったらこのあたり一帯にベキラマかけて溶かせばいい。』
『え?それあたしに覚えろって言ってる?』
『俺がザオラル使えるレベルまで上げるんだぜ?お前はベギラゴン使えてても
おかしくはないさ。』
『あははそっか。了解!頑張る!』
どさっと担いでいた死体を落としざっざっと雪をかけていく。
作業をしながらユウに話しかける。
『そう、ところでそのコの例の奴。』
『ザキの話か。』
二人とも真剣な顔で話し始める。
『うん、あれ・・・なんなの?
タメが少ないんじゃない。ゼロだった。そんな呪文も流派も、聞いたことないよ。』
呪文とは、流派によりその唱え方は多種多様である。
長い詠唱を必要とするもの。
特定の構えから呪文を発動するもの。
魔法力を時間をかけてためるもの。
魔法陣や魔法書を用いるもの。
詠唱するタイプでも声自体を必ず出すタイプや脳内で念じるだけでいいタイプなどさまざまだ。
一般に声に出す方が難易度が低く、威力も大きくなる。
「言霊」という概念があるように、言葉とはそれそのものに力を秘めているのだ。
何にせよ、どの流派にも共通して必要なのは『魔法力を練りだす時間』なのだ。
流派の違いとは、とどのつまり、魔法力をどうやって練りだすかの違いなのである。
『そうだな。だからこれは正確には魔法じゃない。呪いの言葉だ。
ただ、「ザ」と「キ」を声に出すだけで発動する呪いの言葉だ。
ほとんど文献もなくてな。古い本にちょろっと書いてあっただけだったんで、
俺も実在するなんて思わなかったし、今日聞くまで完全に忘れていた。』
『・・・』
『その本によると、
「発声するだけで使用できる。ただし使用できる者には条件がある」らしい。』
『どんな?』
『「人の幸せを願う者であること」だそうだ。』
『・・・』
未だ喉を持ち上げられ、宙釣りの状態の少女。
『おっと、これ以上このままだとホントに死んでしまうかも知れないな。』
そういって右手で腰から黒い塊を取り出す。
それは静かに、冷たく光っていた。
それを見たことが無い者でも、それが殺人兵器だと感じさせる冷たさがあった。
『これは知っているか?一昔前に一瞬世に出たことがあるんだが・・・
お前の年代じゃあ知らないかも知れないな。
これは鉄砲ってもんだ。』
少女の目の前に鉄砲をかざし、しっかりと見せる。
そしてその鉄砲で近くにある小石を打ち抜いて見せた。
小石はきれいに四散する。
『見ての通りの威力だ。人くらいなら簡単に殺せる。
しかし、メラより遅いし威力も弱いってんで開発が中止になったんだな。
馬鹿なもんだぜ。確かにいざって時にはどうしたって魔法のが強いぜ?
だからこそだ。いざって時に魔力を残せるよう、できるだけこーゆう武器を
使うべきだと思わないかい?お譲ちゃん。』
少女を静かに地面に下ろす。
左手は喉を押えたまま、右手の銃を少女のこめかみにあてがう。
ひやりとした鉄の冷たさが、少女の頭に伝わってくる。
『これから喉から手を離してやる。その代わりザキは使うな。
もし「ザ」という発声が聞こえたらその瞬間お前のこめかみを打ち抜く。
脅しではなく、必ず打つ。
例え「ザリガニ」って言おうとした場合の「ザ」だったとしてもだ。
だから、充分に注意して話すんだぜ・・・。』
少女の目は無反応。
気にせずユウは静かに喉から手を離す。
『げほっげほっ・・はぁっはぁっ』
やはり苦しかったのだろう。喉を押さえながら呼吸を整える。
『では聞こうか。お前の・・』
『ザ・・・』
ゴッ。
「ザ」が聞こえた瞬間、ユウの左拳が少女の顔面を殴りつける。
2,3歩下がって倒れそうになる少女。しかしそれをなんとかこらえ顔を上げる。
『ぐっ・・・はぁっ・・・ザ』
どん!
腹部を思いっきり蹴りあげられた。
体が浮き上がるとほぼ同時にふたたび上から鉄拳が顔面に叩きつけられる。
地面にあおむけに叩きつけられた。
背中から落ちたため、彼女は呼吸ができない。
ユウはトドメとばかりに既にぼろぼろの少女の腹を思い切り踏みつけ、
そのままの体勢から、銃を彼女の口の中に強引に突っ込んだ。
無理矢理突っ込んだため、少女の口が切れ血がにじむ。
ユウが息を切らしながら、真剣に、興奮気味に、言った。
『はぁっ、はぁっ、さすがだよお前!!
いや、俺は見くびっていた!まさかココまで保身を考えないとはな!
はぁっ、はぁっ。・・・ふぅ。甘いのは俺の方だった。
勉強になったよ。心から反省する。』
外から見ていた黒帽子の魔法使いは唖然としていた。
この状況下で、反撃にでるとは予想だにしていなかった。
単純に怖い。自分たちの残酷さ、非情さとは別の恐怖を、この娘は持っている。
しかしそれとは別に彼女が気になったことはもう一つ。
(まさか打たずに殴るなんてね・・・。) 『ますますお前の話を聞きたくなったな。
しかしどんなに脅してもお前は口があるうちは「ザキ」を発声するのだろう・・・』
ユウは後ろを振り向いて言う。
『なぁ、ちょっとアレ使ってくれないか?』
『あ、そだね。』
マホトラ。
それは敵単体からマジックパワーを吸収するという異端の技だ。
魔法使いに取って貴重な財産であるマジックパワー、
それを吸収できるというのは非常に魅力的な存在だ。
しかしながら一度に吸収できるMPは、せいぜい通常クラスの魔法一回分が関の山。
故に、実践ではなかなかにして実用性が低い。
何故なら、「吸収」して「魔法攻撃」の2ターンを消費する間に
敵からの攻撃を余儀なくされるからだ。
そのリスクを冒して得られるMPが魔法一回分。
割りに合わないケースの方が多いためあまり好んで使う術師はいない。
彼女は前に歩きだす。
拳銃をくわえさせられながら地面にあおむけになっている少女の前まで来て、
しゃがみ、少女の額に手を添えた。
手に魔力がこもって行くのが遠目にもわかる。
『マホトラ、ゼロ式』
彼女はそういうと同時に額を全力で鷲掴みにし魔力の吸収を開始する。
『あっ!うあ・・・ああああああ!』
青く光った手のひらに、何かが勢いよく流れ込んでくる。
少女は自分の全身の力がどんどん失われていくのを実感する。
食らってみなければ決してわからない、魔力が奪われていくことへの恐怖。
『相変わらず見事なもんだ。コレがあるから、お前は超一流なんだ。』
魔法使いの入門は、メラから始まる。
メラを覚えた魔法使いは、それぞれ自分のカリキュラムを考えスキルを磨いていく。
基本である、ヒャド、ギラの修行をする者。
パーティをフォローする事を優先し、スカラやリレミトの修行をする者。
はたまたメラ系だけに絞り、一足飛びでメラミの習得を目指し狂ったように自身を鍛える者。
人それぞれ様々な道がある。
しかし彼女が迷わず選んだのは他の誰とも異なる道。
マホトラの習得だった。
彼女はヒャドやギラには目もくれず、ひたすらマホトラの修行を繰り返した。
元から才能のあるほうだった彼女は、無事マホトラを習得できた。
それでも彼女はそれをやめることはなかった。
同期の魔法学生は、既にヒャド、ギラをマスターしつつあり、
早い者は他の間接魔法の修行に取りかかろうとしている者もいた。
それでも彼女は焦るそぶりもない。
ただ黙々とマホトラだけを学び続けた。
人にどんな否定されても、アドバイスを受けても、皮肉を言われても、
ただ黙々と続けた。
一人の少年がそれを見かけた。
彼女は来る日も来る日も同じことしか行わない。
彼はその見習い魔法使いの哲学を、彼女の言葉で聞きたくなった。
『こんにちは。はじめまして。
あなたはいつもマホトラの修行ばかりしているんですね。
それも、既にとても上手に見える。
僕は魔法は専門ではないですけど、それでも明らかにあなたのレベルは「極めてる」と
言ってよいレベルのように思えます。
何故、あなたはそれでも続けるのですか?』
いきなり物陰から現れた少年がいきなり語りだし質問してくる。
少女は修行の手を止め、ぽかんとした表情で聞いていた。
誰なの?
てゆか、いつも見てたって?
ヤバい人じゃないのこの人?
ストーカー?
それでも彼が冗談で言っているわけではないというのは伝わった。
少なくとも今の質問に関して、彼は伊達や酔狂で聞いているのではなく、
真剣な気持ちが根底にあるというのは、子供ながらに理解できた。
理屈ではなく、何かが伝わったのだ。
そういう意味で、非常に不思議な少年だった。
だから彼女は、誰であるかを問いただすこともせずに、
いつも思っていることを真面目に答えた。
『続けるよ。魔法使いに一番必要なのは、強力な呪文を覚えることじゃないもん。』
『ほほう。一番必要なのは何だと考えますか?』
大人びた、真剣なまなざしで、少年は尋ねる。 少女は、自信を持った表情で答える。 『・・・一番必要なのは、無限に尽きないマジックパワー。』
『なるほどね。』
『タイマンと戦争は違う。別に、一対一で勝つ必要はない。
戦争は、相手が一人ではないし、当然長期戦になる。
同じレベルの戦力をもった戦士と魔法使いがいたとするじゃない?
昼間は同じ攻撃力をたもっていても、夜まで戦が長引けばMPが切れた魔法使いはゴミ同然。
でも・・・切れることないMPを持った魔法使いがいたならば。
全体がけのできる攻撃魔法と、多種多様な間接魔法とを持っている分、魔法使いが上回る!』
『納得できます。すごく僕の好きな考え方ですね。』
少年が、ようやく少年らしいらんらんとした表情を見せる。
『あらそ?』
彼女はそっけない返事。
しかし内心は驚いていた。今まで自分の話をまともに聞こうとした者さえいなかったのだ。
ゆえにココまでちゃんと考えを伝えられたのも、これが初めてのことだった。
大多数の魔法使いが、頭ごなしにギラを覚えろ、ヒャドを学べというだけだった。
『もうひとつ聞いていいですか?』
『ん?』
『そこまで鍛えて最強と言える魔法使いになったとして、あなたは何をしたいんですか?』
少年が大人びた冷静な口調でいった。 しかし少女の目には、彼の表情がどこかそわそわと興奮気味であるのを無理に抑えているような、 そんな表情に映った。 少女は先ほどと同じように真剣に答える。 『ん~、できれば世界を良くしたい。でもそんな方法があるかはわからない。
わたし馬鹿だしね。でも、それがあったとき、何かをなすためには
やっぱり最後は力技が必要なのかって思う。人が傷つけあうのはやだし、
できれば戦争なんて無い方がいいけど、それでも最後は力になるのかなって。
暴力無しに片付けばもちろんいい。方法を見つけた人がいたら教えてほしい。
でもそれができない場合のために。 暴力はいくらあっても損はない。』
少年は・・・満足げな表情だった。 『うん、好きな考え方です。やはり僕には人を見る目がある。自信がつきました。』
『何よそれw』
少年は思わせぶりに少々間をとり・・・そしてこう言った。
『単刀直入に言います。僕は君が欲しいです。』
ぱちくり、と目を瞬きさせる魔法使いの女の子。
『へ・・・? わ、私と、つ、付き合いたいってこと?
でででもそんな、今日会ったばかりだしそれに』
『いいえ、違います。僕のパーティに入ってほしいんです。魔法使いとして。』
『・・・』
相手の誤解をすっぱりと否定した少年。
女の子は自分が勝手に勘違いして照れてしまったことに、なんだか不思議と頭にくる感覚を覚える。
そんな女の子にかまわず、少年は口説き続ける。
『僕は、近い将来、勇者になります。
あなたの力が欲しい。
最近、僕は優秀な忍者を仲間に入れました。
次は君のような魔法使いが欲しい。
戦いを「戦争」で捉えることができて、
平和のための暴力の必要性を勧善懲悪ではなく考えられるあなたが。』
『・・・』
『おまけにその魔法使いは「無限のマジックパワー」の習得を目指している。
絶対に手に入れたいです。』
相手の目をじっと見つめ、強い口調で言う。
同年代でこれだけのオーラを持った人間がいるなんて。
『で、でも別にあなたがホントに勇者になるかわからないし・・・、
あ、あなたはわたしの好みのタイプでもないし・・・』
『どういった人が好みですか?』
『えっと、もっと背が高くて~、力強い武闘家タイプかな^^』
『ああ、それは良かった!僕の仲間はちょうどそんなタイプです!
顔もいいですし、きっと好きになりますよ!』
『え?あれ、お仲間さんは忍者じゃなかったっけ?』
『はい。でも、イメージはぴったりです。きっとあなたは好きになりますし、
彼も君を好きになりそうです。』
『・・・』
『そして、僕は必ず勇者となります。世界をこの手で動かせるだけの勇者に。』
『うーん、で、でもさっ、急にそんなこと言われても・・・』
『そうですよね。だから予約です。
近い将来、必ず迎えに来ます。
勇者として成長した僕と、イケメン忍者になった彼と』
『んー。んー。』
もじもじ困っている姿が愛らしい。
『だから、それまで誰とも組まないでください。僕が・・・』
またもったいぶるようにタメを作って・・・決め台詞を言う。
『僕が必ず、世界を変えます。』
彼女の目をじっと見据える。
『そしてそのために、あなたという存在が、僕は欲しいんです。』
見つめられた彼女は困っているが・・・。
『・・・わかった。でも、全然期待はずれだったら組まないからね?』
『ええ、それでいいです。もちろん、それはありえない仮定ですけどね。』
『あはは、ホント自信家なんだね。でもなんかちょっと気に入ってきたかも^^』
『良かった!僕もおかげでやる気がでます。
じゃあ君の期待を裏切らないよう頑張りますよ。
では、またね。』
『うん! またねー☆』
勇者と魔法使いの、初めての出会いであった。
少女の体から激流の河が逆流するようにマジックパワーが吸い取られていく。
ユウは少女から銃口を外し、離れ、その様を楽しむようにゆっくり見ていた。
『マホトラゼロ式、か。
直接相手の頭部に触れて発動させることで、「全ての」MPを吸い取ってしまう奥義。
考えれば思いつきそうなものでもあるが・・・今まで誰も考えた者はいなかった。
さすがだよ。固定観念を捨て、魔法使いに最も必要なものを考え修行し続けたおまえは、
まさに超一流だ。こんな女を一人にしとくわけにはいかねぇよな。もったいねぇ。
・・・ザオラルだけは・・・必ず。』
青い光がすーっと消えていく。
黒帽子の魔法使いはMPを吸収したためか、やや満足げな表情で立ち上がる。
『早いな。もう吸い取りきったのか?』
『うん、あの恐ろしいポテンシャルの割には、まだMPはそんなにないみたい、このコ。
ざっとギラ7、8発分ってとこかな。』
『・・・そうか、なるほど。俺の話覚えてるか?噂では6人以上だと殺されないってやつ』
『うん、馬車で話してた奴だよね・・・あ!』
『そう、最大MPの縛りだったんだな。だぶん。ザキ5回分くらいのMPしか
まだないってことか。』
『なるほどー、納得だね。』
少女はよろめきながらふらつきながら、ゆっくりと立ち上がった。
『さすがにもう何もできないだろう。なぁ、俺は君のことに興味があるんだ。
話してくれないか?まずは君のこの行動の理由を。』
しばらくだまってユウを見つめていた。
そしてしばらくして意を決したように口を開く。
『・・・ぁあ・・・うあ・・・』
少女は声を上げようとするがうめき声のようなものが漏れるだけだった。
『あれ、このコ・・・』
『ああ、声が不自由なのか。これでは話を聞けないな・・』
『あー、あー。あー。あー。』
少女はなおも声を出そうとする。
『ああ、すまない。知らぬとはいえ悪いことを言ったよ。無理に話そうとしなくてもいいさ。』
『・・・うあー、あー!・・・まー!まー!』
何か違和感を感じる。
言葉が不自由でうまくいえていない、というのとは別な何かを。
『なんだ?なにかおかしいような?おい、別にもう無理しなくていいって。
まさか、これが何か仲間を呼ぶ合図だったりしねーだろうな?』
『え、でもこれってなんか・・・発声練習でもしてるみたいな・・・』
『発声練習・・・?・・・まさか!』
突如少女は後ろへ飛び下がる。と同時に。
『マホトラーー!!!』
勇者の体から青い光が発する。
『ぐぅっ!!コイツ!!』
ユウは即座に間合いを詰める。
隣の彼女はギラの詠唱。
しかしそれよりも早く。
『ザキ。』
どくん。
テレビのスイッチを切るように。
突然世界がばちんっと暗くなった。
ココはなんだ。ただ暗い。
いや、それだけじゃない。この感覚は?
感覚?感覚って何だ?
暗いだけなのか?見えない?聞こえない?
そういえば俺の手はどうした?足は?
あるのかさえわからない。いや、わかるってなんだ?
脳はどうした?俺はなんだ!?
俺はどうなった!?
・・・死。
突如理屈抜きに認識できた。
これが死。
これが・・・死かぁ。
何もできない。何も感じない。何も認識できない。
・・・。
嫌だ。死にたくはない。
俺は、まだやらなければならないことが!
俺でなくてはだめなんだ!俺以外に。俺以外に誰も!
俺が!俺が!俺が!!
生きなければ!俺が!!
何はなくとも俺でなくては!!!
死にたくない死にたくない死にたくない!!! 幾千幾万の屍を超えてでも、俺が生きなければ!
俺が生き抜いてなさなければ!!俺が!俺が!!
例え全ての命を殺すことになってでも俺が全ての命を救わなければ! 俺が!俺が!俺が! 誰が、誰がやってくれるというんだ!! 俺が!! ココは嫌だ!怖い!寒い!暗い!淋しい! 死にたくない! ・・・ああああ!
・・・ああ。生きたい。 ぱりん。
何かが砕ける音が聞こえた。
・・・聞こえた?聞ける?
すぅーっと目の前が白くなり、
次の瞬間、目の前に白い少女がいるのを認識できた。
ふらりとよろめき倒れそうになる。
だん、と右足を出して踏見とどまった。
(動く。おれの足!手も・・・動いた。目も見える。音も聞こえる!
・・・これが生!生の味だ!!これが・・・これが・・・)
生きてるっていう事!!! (あ、あれは・・・命の石。あの時村のおじーさんからユウが騙し取った石。
「たった一度だけ命を救う」って・・・まさか対ザキ用の宝具だったなんて。)
ユウの首からぶら下がる青い石が、 その半分が綺麗に砕け雪の上に飛び散った。 ユウは顔をあげた。
その顔をまさに鬼のような表情で、口元は笑っていた。
前に出した右足を軸に一気に加速する。
死んだはずの人間が動き出すことに戸惑いを隠せない白い少女。
少女を思い切り右こぶしで殴り倒す。
紙くずのように吹っ飛ばされる少女。
ユウは倒れた少女の顔を何のためらいもなく力任せに踏みつける。
ごっと鈍い音が鳴る。
その足で、呪文を発声できぬよう口を封じる形で押さえつける。
ユウは、少女を踏みつけ見降ろしたまま、先ほどザキを食らいかけた時よりも
さらに興奮した口調で、そしてまさに鬼の形相でこう言った。
『ありがとう!!本当にありがとう!!
もはやお前には感謝の言葉しか出ない!!!
3つのことに感謝する!
一つ目は、俺の甘さに気づかせてくれたことだ!
俺がこんなに甘かったとは!お前のおかげで気づくことができた!
本当に勉強になったよ!
この状況で見よう見まねでマホトラを詠唱?魔法力ゼロからの反撃?
俺は想定していなかった。ホント、勉強んなったよ。
二つ目は、俺を殺してくれたことだ!
死んだ人間も殺した人間も見てきた。人を殺す経験も積んだ。
しかし、殺されたことだけは、経験できなかった。
勉強んなったよ!死を学ぶことで生を学ぶことができた!
他の何にも勝る圧倒的経験値。本当に勉強んなった。
俺自身の生きたいという意思!それを気づかせてもくれた!』
『そして三つ目は・・・』
『お前に・・・最高の女に巡り合えたことだ!!・・・心から、ありがとう。』
少女は死んだ魚のような目でじっとこちらを見つめる。
『さて・・・こいつはしゃべれないし・・・、まぁ文字くらいはかけるだろうな。
よし、場所を変えよう。そこの宿屋にいって落ち着いて話をしようか。』
そういって、少女に優しくさるぐつわをし、宿屋へ連行することとなった。
■第3話 旅立ち
3人が馬車の後ろに乗り込みゆられている。
長身の黒装束の男が一人。背が低めの黒マントに黒帽子の女が一人。
そしてジーンズにTシャツの、勇者と名乗る男が一人だった。
『んで、これからどこ行くんだ?』
『そーそー。ユウんちで会議する予定で村に立ち寄ったのにさぁ、結局一晩中・・・
なんでもない。』
自分で言いかけておきながら、真っ赤になった顔を黒帽子で隠す。
『うん、俺が今考えているのが3つある。』
『へー、3つもとはなかなかアイデアマンだな。』
黒マントの女はまだ顔を隠したまま会話には混ざらない。
『まず、一つ目。悟りの書だ。これは言わずと知れた賢者への道だ。』
『なるほど、賢者ね。そだよなー、ウチは勇者しか回復魔法使えないもんな。』
『ああ。先を目指すなら必ず取得しておくべきアイテムだな。
当然、お前を賢者に成長させたい・・・だからいい加減顔上げろコラ!
お前の話だろが!』
『いやん!』
強引に黒帽子をはぎ取る。
赤くなったニヤケ面がそこにはあった。
『なに妄想してんだこのスケベ!ちゃんと会議に混ざれ!』
『は~い↓』
こほん、と咳払いする勇者。
『うむ。次に二つ目。これがザオラルの伝説だ。』
『死者蘇生のこと?それって実話なのかな?』
『死人は生き返らないとおれは思うけどなぁ。』
『うん、確かに眉唾な話だけど、伝説上は存在している。勇者だけが得ることのできる
かなり信憑性の高い情報の中にも、やはり存在している。』
『でも、もし手に入るんならさ、相当戦略に幅が広がるよね。』
『その通りだ。んでこの情報を持っている老人の居場所がようやくわかったんだ。
まぁザオラルはあることはある、と俺は思っている。
しかしその発動条件、成功確率、副作用なんかがあまりにも不透明なのが現状だ。
実用性がどこまであるかは甚だ疑問。
ま、「あるならあった方がいいよね」って感じかな。』
『なるほど、確かにそんな感じだな。三つ目は?』
『三つ目は・・・北の魔女。』
『おお?魔女。こりゃまた古風なネーミングだな。』
『でもある意味わたしも魔女じゃない?』
『確かにな。でも魔女ってもっと怖いイメージがあるよな。
お前はすげーかわいいし。』
『・・・もぅ』
また帽子を深くかぶる。
『いやほんと。なかなかお前よりかわいいこなんて・・・』
『あのさ、話続けていいか?』
戦慄。
負のオーラが馬車を包む。
ひひーん。と鳴き声が響く。
馬車をひく馬にまで、勇者たるものの殺気が届いたようだ。
(まずい。話の時の腰を折るとこいつは素で怒る・・・)
(こわ!ちょっと、もう静かにしないとやばいよ・・・)
二人ともぴんと背筋を伸ばし正座の姿勢をとって身構え、真面目に聞く態度をとる。
その態度に満足したのか、ユウは殺気を半分程度に抑えて話を続ける。
『北の国ではもう大事件と言っていいほどの殺人事件が毎日起きてるらしい。
魔女に出会ったすべての人間が必ず殺されているそうだ。』
『すべて?んじゃどーやって魔女に殺されたってわかったの?』
真剣に聞いてることをアピールするため、積極的に質問を考え発言する。
『遠目に見ていた人がいたらしい。だからどうやって殺したかとか、
細かいところは何もわかっていないようだ。
目撃者の証言は、ただ、「白い少女」だったと。』
『要するに何もわからんってことね』
『もうひとつ情報としては、毎日の殺人で、必ず4,5人ずつ消えていくのだそうだ。』
『え、なんでなの!?』
食い付きを見せることで真剣さをアピールする黒帽子。
そのわざとらしい真顔に「やりすぎだ」と肘でつんつんと注意する黒装束。
ばれると余計怒られる。
『わからない。ただ、事件が始まるようになって6人以上で行動するように対策をとったそうだ。
そうすると、6人以上で行動している間は絶対大丈夫なんだそうだ。』
『じゃー、殺されるのはそのグループからはぐれたりしたときとかってこと?』
『そうみたいだな。まぁ、なにぶん遠くの国の情報だからな。あやふやなことが多くて困る。
実際のところは行ってみないとわからないだろう。』
『ふーん、あ、まぁ6人以上ってことは俺らは3人だから巡り合えるかもな。』
お、この発言は自然な流れで好感度上げる質問できたな。我ながらナイス。
『なるほど。それが三つ目かぁ。んでどれから行くの?』
『うん、まず悟りの書。これは手に入れることが困難な上、手に入れてもある一定のレベルに
ならなければ使えない。ザオラルも、もし呪文の詳細が判明したとして、使えるのは俺か、
賢者にした後のお前ってことになるが・・・どちらにしろ、これだけの大呪文だ。
まだレベルが足りないとみていいだろう。』
『おし、つまり魔女を倒しながらまずはレベル上げってことだな!?』
『その通りだ。』
『よーし、んじゃー行こう行こう!!あたし雪見たことないから北の国楽しみ!』
『そうそう!俺も無いんだよ!早くいきてー!』
『無いのかよお前ら。これだから南の育ちは・・。ホント真面目に聞くふりだけして
結局雪見たいだけかよ。まぁよい。では進路決定だ』
ユウは御者に指示を出し、一行は北の国へ向かう。
ぱちっ。
黒装束の男は目を覚ました。
何やら眩しい。天気がいいからか?いやそれだけではない。
何か見たことの無い景色が見える。
『ん!これは、まさかこれが!!』
騒がしさに目を覚ます他の二人。
『むぅ・・・なぁにぃ?』
『ん?もちょい静かに起きろよ・・・ん?』
二人の目に入ったのは立ち上がった黒装束の男。
『うおおおお!』
彼は突然馬車からダイブする。
『!?』
二人の驚きようといったらない。
ずぶっ。
彼は雪の中に人型を作るように埋まった。
『うおおおお!!冷たてー!!冷たすぎる!!おい!みんな来いよ!!
雪だぞ!?これが雪だーー!!!』
はーっとため息をつき肩を落とす勇者。
これが信頼のおける自分の片腕かと思うと自信がなくなってくる。
『今行く!』
『へ?』
プールにでも飛び込むようなポーズでもう一方の片腕も馬車から飛んで行った。
『おいおい』
激しい勢いで飛ぶもんだから、マントの下が勇者から丸見えになっていた。
『・・・ってゆーか、あのマントの下はブラとパンツだけだったのかよ。
ちょっと欲情しちまうじゃねーか。』
昨日一生分かと思うくらい出したはずなのに我ながらまだまだ青いと反省しながら、
馬車をとめてもらい、無邪気な仲間たちを眺める。
武闘家特有のスピードによりあっという間に雪だるまが完成され、
遊びは雪合戦に移行している。
黒装束の超速の雪玉を、黒帽子のメラでキャンセルする。
なかなかハイレベルな攻防だ。
・・・。
しかしながら、5分もたたないうちに、二人ともふるえながら戻ってきた。
そりゃーあんな北国舐めた格好じゃあな。
ユウは馬車においてある防寒具を着始める。
『お前ら、黒装束と黒マントがトレードマークかもしれんが、この寒さだ。
ちゃんと防寒具は付けろよ。これは命令だ。』
『ぐっ、いやこの装束はわが一族に伝わる由緒正しき・・・』
『命令だ』
『はい・・・。』
でかい体を小さくして命令に従う。
しぶしぶ置いてあるコートの中からできるだけ黒いものを探す。
あっちの黒マントはと言えば、器用にマントを着たままマントの下に防寒具を着始めていた。
しかしながら、たとえマントで隠れていようとも、女性の着替えというのは
なんとも情欲をそそるものだ。
先ほど中身をはっきり見ているために想像力も豊かになる。
『お?あれ?ユウ。興味ある~?やっぱ少女より大人の女のがいいでしょ^^』
軽くセクシーっぽいポーズをとる。
『え?いやどちらかというとお前は少女っぽ・・・』
『それは言うな・・・!』
小声で台詞を止められた。俺は言葉をさえぎられるのが一番不愉快なのに。
『そしてあいつの着替えを見るな。俺のだ。』
くそっ、別にそこまで見たいわけじゃないのに、なんだこの扱いは!
俺は勇者だぞ!リーダーだぞ!管理者だぞ!
全員の防寒装備が完了した。
『ん、ココはもう北の国の中だな。寝てる間に国境は超えてくれたようだ。
では後はもう歩いて行けるな。』
御者に賃金を払い、馬車は立ち去っていく。
『おおー。雪の道を歩くなんて斬新だなぁ。でも辛いのかと思ってたけど、
楽しいだけじゃないか?』
『今日は天気がいいからな。山ん中で吹雪いちまったら地獄だぜ?バラモスが可愛く見えるさ』
ぴたっ。軽い足取りでるんるんと先頭をあるいていた男が突如止まった。
『ん?・・・君、どうしたの?』
2番目にあるいている彼女の帽子が男の背中にこつんとあたる。
彼はいつになく真剣な表情だった。
『なぁ、ユウ。例の魔女・・・あれは「白い少女」って言われてたっけ?』
『ああ。・・・まさかいたのか?』
彼の見ている先を目を凝らす。何も見つからない。
『見えないか?俺は目が利くからな。これは・・・間違いないぜ。
例の犯人だ。』
まれにみる真剣な表情で彼は言い切った。
『何故言い切れる?』
『まずは外見。あれを見たら誰だって白い少女っていうだろうよ。
んで、それは大した話じゃなくて・・・とりあえずユウも見れば誰だってわかるさ。
あれは普通じゃない。』
『そうか。わかった。向こうはこっちに気づいているか?』
『まだみたいだな』
『よし、少し距離を詰めよう。』
3人で自然に道なりに歩いて行く。
道は緩い坂になっていって、少女の方に向かって少しずつ登っていく。
『…俺にも見えたよ。』
『わたしも』
確かに、「普通」じゃない。
まだそれ以上は表現できない。
ただその雰囲気が只者ではないことだけは確かだった。
美しい銀髪に白い肌。白い帽子に白いコート。
確かに白い少女だ。
少女はこちらからみて右方向に体を向けている姿勢であるため、
まだこちらは視界に入っていないだろう。
『どうする、ユウ』
『まだ様子を見たい。あまりにも情報が少なすぎる。もう少しだけこのまま近づく。』
『了解』『了解』
ふいに少女は顔をあげた。
そして、それは何の気は無しにした行動だろう。
くいっとこちらに顔を向けた。
目が合った。
どくん。
3人が3人とも、全身に圧倒的威圧を感じ、悪寒が走り、電流が流れた。
『こ、これって…』
『これは…』
これは殺気だ。
「必ず殺す」という意思だ。
3人とも修羅場という修羅場はくぐってきている。
殺すつもりで殺した人間も見てきた。その人間に殺された人間も見てきた。
殺すつもりの人間の攻撃を受けたことも、殺すつもりで殺したことも経験してきた。
故に殺気というものははっきりとわかる。
これは殺気。
それも恐ろしく強い、必ず殺すという覚悟の表れ。
しかし本当に恐ろしいのはそこでは無い。
本当に恐ろしいのはほんの1秒前は殺気がまるで感じられなかったという事実だ。
彼女はこちらを振り向くまで、殺気が無かった。
つまり、殺す気が無かった。
こちらを振り向いてから我々を視認して殺気を放つまで0.1秒もなかった。
その間に我々が敵かなんなのか、判断する時間なんてあるわけがない。
つまりはこういうことだ。
『あいつは…目に入ったすべての者を殺すと、最初から決めているんだ。』
■第2話 勇者
二十代半ばくらいの風貌の男が歩いている。
そこに少年二人がものすごい勢いで飛びついてくる。
『おーい!ゆう兄ぃ! ちょうどいいとこに来た! 早く早く!もう試合はじまっちゃうんだ!』
『おお~!ひさしぶりだなー大きくなったなーって、挨拶もなしかよw 何の話?』
『今、大事なサッカーの試合があるんだ、負けられないんだ!』
『いいから早く早く!』
『ええ?ちょっと今の今帰ってきたばっかりなんだけど?』
『早くしないと不戦敗になっちゃう!急いで!』
『はいはい、しょうがないな~』
ジーンズにTシャツ姿。首には青い石をネックレス代わりにぶら下げている。
柔らかい表情。一見して優しそうな印象を受けるその雰囲気。 事実子供たちも久しぶりに帰ってきた彼を嬉しそうに取り囲んでいる。
『おやおや、ユウちゃんじゃないかい。おかえりなさい。いつ来たんだい?』
『おひさしぶりです、おばさん。てゆーか僕はユウちゃんじゃなく勇者なんですけど』
『あらあら変わらないわねぇ。名前がユウならユウちゃんじゃないかい。
勇者の調子はどうだい?もうかってないなら、いつでもウチで働いていいんだよ。
こきつかってあげるから。』
ニコニコしながら後ろの宿屋を指差す。
『ありがとうございます。でもまぁ、僕は宿屋の従業員より実は勇者向きなんですよね。』
『あはは、まぁ無理せずがんばりなー。』
『はい、ありがとうございます!』
『いいからゆう兄ぃ、早く行こうぜ!』
『おっとと、わかったからひっぱるなって』
引きずられるようにサッカー場の方へ連れていかれていった。
黒装束の長身の男がいた。
隣に黒マントに黒帽子の女。
男の方は先ほどの『勇者』と同じ年代だろうか。
女の方はもう少し若くも見える。
『おいおい、故郷へ帰ってくるなりもうガキに拉致されてやがるぜ、あいつ。』
『うーん、カレ、外面は神だもんね。それとも故郷だし素の自分を慕われてるのかな?』
『まーどっちでもいいか。どうする?俺らヨソ者だし、あいついねーと右も左もわかんねー』
『え~、でも久しぶりに・・・二人きりじゃない?』
『予期せぬチャンス到来って感じだな。まずはちょっとぶらぶらしてみっか。』
『え!・・・ひょっとして、それってデートってやつ!?』
『そう、まさにデートそのものだな。』
黒装束と黒マントの組み合わせ。
一見して恐怖を感じる人もいるであろう黒ずくめの格好に反して、
一見してわかる恋人同士のオーラ。
勇者の居ぬ今がチャンスとばかりに腕を組んで店をめぐる。
『えへへー』
『なんだよ、かわいくなっちゃって。』
『いやー、君の腕にこんな風に絡みつくのって実は初めてじゃない?
すごく幸せなもんだなーって。』
『・・・当たり前だ。俺なんて、人生で今が一番だぜ。幸せ度が。』
『じゃあ、今が一番ってことは後は下がるだけってこと?』
『何言ってる。オリンピックでも世界記録なんてしょっちゅう塗り替えられるだろ?
幸せのMAXなんて、日々更新し続けるもんなんだよ。』
女は顔を上げ、男の目を見つめる。 『・・・。ああー、君のそーゆー考え方好きだな~。また惚れ直しちゃうよ。
私たちって、基本ユウの冷酷な考え方にすべてをささげる覚悟を決めてるじゃん?
でもそれとは別にさ。ユウの考え方はすべて信頼しているけどそれとは別に、
私は君の考え方が大好きだよ。君のことが大好き。』
『・・・』
『あ!照れたね?やっと照れた!ついに!』
『・・・ん、まぁ、そうだな。』
『もー、でかい体してかわいーとこもあんだから^^』
『やっぱ俺らってつえーよなぁ!』
『いや、あいつらがよえーんだって!!』
『でもユウが監督やってくれたらじゃね?指示的確だし。』
『ユウが直接試合にでりゃーよかったのに』
サッカーボールを持った少年たちがグラウンドから帰ってくる。
話題は今日の試合の勝利についてで持ちきりだ。
『いや、俺が試合出たら意味ないでしょ。みんなの方があいつらより強いって証明しなきゃ、
また舐められちゃうぜ』
『ああ、そっかぁ』
『それに、俺は監督向き出しな。』
『勇者って監督なの?勇気出して戦うから勇者じゃないの?』
『・・・まぁその辺はも少し大人になってからだな。みんなはまず己を限界まで高めるんだ!』
十数人の少年たちがかわるがわるユウに話しかける。
ユウはめんどうがらず丁寧に意見を聞き、的確な答えを返す。
そんなユウをみんな心から信頼し、好いていた。
『ユウ兄ちゃん!』
セミロングの元気女の子が現れる。眩しい笑顔だ。
『もう、帰ってきてすぐサッカー?一度くらいは顔見せてからにしなよー!』
『ただいま、ごめんね。なんか拉致られちゃって』
『まったく、この子たちったら。今度は私の番だから!』
そういって腕をとり、集団から強引に引き離す。
『あ~、ユウとられちゃう!』
『くそー!まだこの後トランプとかもすんのによー。でもセリス怒らすとこえーから
とりあえず帰っとくか。』
『そーそー。後でユウを回収に行くぞ!』
そんなことを言いながら、三々五々帰って行った。
湖のほとりを二人で歩く。
『久しぶりだよね、ここに来るの』
久しぶりのためか、セリスはどこかぎこちない。
『ああ、懐かしいね。俺はこの村自体ホント久しぶりだからな。』
『もー、ユウ兄ちゃん全然帰ってこないんだもん。』
『ふーん、そんなにさびしかった?』
『そ、そんなわけじゃないけど。』
『そか。』
ぐいっと肩を引き寄せる。
『あ・・・』
頬が露骨に赤く染まる。
『どうしたの?』
『え・・あ・・別に』
『そう?ならいいんだ。』
そのまま静かに沈黙を味わいながら、ほとりを歩いて行く。
自然の中を歩くのは日常ではあるが、やはり自分の故郷というのはまた違った印象がある。
何かが落ち着く。
自分の居場所。大好きな街の人たち。俺のことを好きな女。
これが幸せじゃなくてなんだ。
でも、だからこそ、このままここにはいられない。
これ以上いたら、この俺でさえ心が折れてしまいかねない。
こんな幸せの中にいたら。俺の棘がすべて折られてしまいそうだ。
『俺は・・・また直ぐに村を出るよ。』
『そ・・・っか。やっぱりそうだよね。うん、それはわかってた。』
『そか』
『わかってたけど。わかってたし、止める気はないけど。』
『けど?』
『え?』
『けど・・・何かな?最後まで言われないとわからないな。』
『な、なんでもないよ?別に』
『なんでもなかったら、「けど」で言葉を区切らない、よ。
いいのかな。俺はまた直ぐにいなくなっちゃうけど、セリスは何も伝えなくていいのかな。
たとえ何を言っても俺は考え方を変えないけれど、それをわかっていても、
何も伝えないことがいいことなのかな』
『・・・んんん・・・』
セリスはもじもじと体をよじりながら顔を赤らめている。
『けど…何?』
『・・・けど、それでもユウがいないとやっぱり淋しいよ。』
そっぽを向きながら答えた。
『ようやく素直になれたね。偉いよ!』
『・・・!やっぱりずっとわかっててからかってたんでしょ!!なんでいつもそうなの!?』
『聞こえが悪い言い方だなぁ。成長を促していたんだよ。』
セリスと話しているのはやはり楽しい。
明るく、元気で、・・・そして強い。
ただ楽観的なわけじゃなく、根に強さを持っている。
強さからくるその笑顔を、俺は誰よりも評価している。
『たぶん、明日とかにはもうパっていなくなっちゃうんでしょ?どうせ』
『よくわかってるね。だからその前に・・・ここでキスして欲しいって?』
驚いた表情で反射的にぱっと振り返る。 赤い顔が可愛らしい。 『え!?言ってない!そんなこと言ってない!』
『でも、思ってる。』
『え、そんなこと・・・ん!』
キスされた。
(え!?)
動揺したすきに瞬時に舌が入ってくる。
『んあぅ』
まさかこんな形でこんな突然こんなことになるなんて。
ずっと望んでいた初めての相手。
その相手に実際に奪われる、この不思議な感覚。
『ん、んあぁっ、ちょ・・・まっ・・・ぷぁっはっ』
ようやく離れる。
顔をあげると相手がこちらを強く見つめる。
『勇者に必要なものは、何だと思う?』
『・・・こ、こんなことしといて何の話よ!?』
頭の中がまったく整理がつかない。 え?今キスされたんだよね? 何?必要なもの?何の話? そんなセリスにはお構いなしに、彼は続ける。 『それは、勇気と・・・マネジメント能力だよ。』
たまに彼が見せる真剣な表情で続ける。
『勇者たるもの、勇気はあるのが当たり前。理屈でわかっていても、
その通りに「とっさに」動くためには勇気が必要だ。これがなければ勇者とはいえない。
それはただの最低条件だ。同時に奥義でもある。
もうひとつはマネジメント力、リーダー力だ。
トップは人を管理する力が必要だ。 とどのつまり、勇者とは世界を守るものだ。世界とは最大の組織であり、
パーティとは最小の組織だ。
そして勇者一行ってのは規模こそ最小なれど一騎当千の兵を抱えた最強のパーティだ。
パーティを管理できずして、どうして世界を管理できるのか。
この数人のパーティの状態をより深く把握し、問題点を洗い出し、対策を立て、
行動を起こし、反省し、そしてまた対策を立てる。
そのためにはまずは人を見ることが非常に大事だ。
戦士のHPや魔法使いのMPの残などは言うにおよばず。今どんな悩みを抱えているか。
俺に対しどんな思いを我慢しているのか。本当は今何をしたいと考えているのか。
それを言えるような環境を作り、また、察してやる。
それもまた、いやそれこそが勇者の仕事だ。』
昔からこういう話をするユウは、本当に真剣な顔で話していた。
セリスはそれを思い出しながら、言葉をかみしめて聞いていた。
『だから・・・お前の気持ちも読んだんだよ。俺に・・・唇を奪われたかったんだろ?』
ユウが真剣な顔で、どこにも冗談なんて含まない真剣な表情で、冗談みたいなことを言う。 昔から、ただ、魔法のように、ユウに見つめられたら何もごまかせなくなることがある。 『・・・うん。』
『うん、いい子だ。』
『あはは、なんか素直に言っちゃったw』
『それで?』
『え?』
セリスはどきっとする。
この見透かされたような言葉にセリスは逆らえなくなる。 『そ・れ・で。セリスはどうしたいの?』
ああ、この人には何も隠せない。いや隠したくない。
それは一体どんな呪いなのか。
ユウと話していると洗脳されるように何かを説得させられてしまう。
『え、えっとぉ』
『ん?何?俺にわかるように丁寧に正確にはっきりと言葉に変えて表現して。
君の口から、君の言葉で、君の想いを、俺にわかるように、伝えて。』
それは何かの呪文なのか。 誘い出されるように、セリスから言葉が漏れる。 『あの・・・して欲しいです。初めての相手は・・・あの・・・ユウで。』
セリスの顔は、もう真っ赤になるどころの騒ぎではない。
比喩ではなくホントに火を吹いているのではないかと思わせる炎上っぷりだった。
『うん。よく言えたね。傷つくことを恐れず自分の欲求を言葉にする。
それってすごく重要なことだよ。今の気持ちは忘れちゃだめだよ。』
『う、うん』
『そして一つだけ約束してくれ。俺はお前のそばにいられない。だから、俺が立ち去ったら
いつか他の男を見つけ恋をすること。』
『・・・ホント、鬼みたいなこという男だよね。』
おもわず涙ぐむ。
本当に鬼だと思う。彼が優しさで発した言葉だとわかってしまう。
すべての言動が完全に私のことを考えての行為だとわかってしまう。
その上でこの鬼は決してつなぎとめられない、そのこともわかってしまう。
それゆえに目に溜まった涙だった。
『それでお前が成長できるのなら、鬼でもなんでもかまわないさ。
この村に、お前の存在は必要だ。いつかお前がこの地域のキーになるはずなんだ。』
『・・・』
『だから・・・約束だぜ』
『うん』
うん、と言うが早いか再び唇が奪われる。
『んあっ・・・・んんんん!?』
同時に服の下から手が入りこむ。
小ぶりな乳房を男の思いのままに揉みしだかれる。
『そんないきな・・・ん』
言葉をさえぎるようにがばっとシャツをまくしあげ、乳首にかぶりつく。
『んああ・・・んっんんっ!!』
いったいどうやって自分はシャツを脱がされたのか。
いったいブラはいつはずされたのか。そんな時間も無かったし外された感触も皆無だった。
考える間もなく乳首を舐められる。初めての圧倒的快楽。
しかし、丁寧に乳首を舐めながらも、
既にユウの指先はショートパンツのチャックをおろし終えていた。
『あ、あんた勇者じゃなく絶対スリ師かなんかじゃ・・・やっ!・・んぁっ!』
気がつくと大事なところは露呈してしまっている。
半端に体にまとわりついたままのシャツとショートパンツが逆に扇情的すぎる。
ベンチに手をつかされ、後ろから両胸を鷲掴みにされる体制になる。
『さ。お願いしないの?』
『・・え?』
『何が・・・望みなんだっけ?』
『・・・え・・・そんな』
『自分の望みを言葉にできることが重要。そう言わなかったかな。』
『10秒待つ。それ以上は待てない。
10秒たったら、君は望みが無いと判断し、このまま君を置いて帰ってガキ共とトランプでもするさ』
『そんな・・・ひどい』
あの気丈なセリスが再び涙ぐむ。
『8、7、6・・・』
涙が頬を伝っている。
男に尻を突き出し胸を掴まれた状態で振り返りながら見せる一筋の涙。
男を欲情させないわけがない。
『5・・・4・・・』
でもわかってしまう。 この男は宣言したら必ず遵守する。 自分の発言は守ってしまう。 もし、たとえ、彼がどんなに私を冒したいと思っていたとしても、 私が答えなかったら平気で帰ってしまう。 それは変えられない真実。 明日、彼がいなくなってしまうことと同じくらい、・・・変えられない真実。 ユウ自身でさえ、ユウの言葉は変えられない。 ・・・明日・・・いなくなっちゃうのに、このままで・・・ 『・・・3・・・』
『ま!まって!・・・言うから』 止まらない、カウントダウン。 『・・・ん?・・・2・・・・1・・・』 もう、言わなきゃ止められない!! 『し、してください!!』
『ん?どういうこと?』
『あ・・あの。後ろからユウのを、えっと・・・私の中に・・・い、入れてください!』
『ん。まぁ70点としておこうか。おかげで俺のもMAXパワーになったよ。』
ずん。
『ああああっ!』
・・・・。
静かな夜の湖畔。
半裸の男女がベンチに肩を寄せ合って座っている。
『えへへ、しちゃったんだね。』
『ああ、最高に可愛かったぞ。セリス』
『・・・』
露骨に真っ赤になる。
『おいおい。そんな台詞なんかより恥ずかしいこといっぱいしたのに
そんなことで赤くなるなんてな。』
『意地悪。』
体をくっつけてくる。こてん、と肩に頭を乗せる。
『・・・でも不思議。あんなに大きかったのに、やっぱり終わったら小さくなるんだね。』
『ああ、これが男性ってもんだ』
『へ~、一回しちゃったらしばらくはおっきくならないもんなんでしょ?』
『まぁふつうはな。でも勇者は別だよ』
『え!?勇者ってそんなことも勇者なの!?』
『そうだ。セリスとはもう当分会えない。つまり一生分お前と交わらなければならない。
・・・今日は、文字通り寝かせないよ。』
セリスの背中に悪寒が走る。
自分は大丈夫なのだろうか。
今日は勢いでユウにそそのかされてこんなことまでしてしまったけれど、
ここから先の時間をココにいて大丈夫なのだろうか。
何かはわからない、わからないが、何か取り返しのつかないことに・・・
『ん!』
おもむろにキスされる。・・・この男のキスは常に強引だ。
それなのにそのたびに愛液があふれる自分が信じられない。
濃密なキス。堕ちていくように甘い幸せ。 セリスはふと下に視線をやった。 なんとも理解しがたい不思議な物体を注意深く見つめる。 さっきからずっと興味をもって仕方なかったアレに実際に触れてみた。
『あ、柔らかい。』
やっぱり一回したあとはこうなんだー。と普通に思った。
『ココからが「勇者ならでは」なんだよ。』
アストロン。
それは味方全員を鉄の塊に変える勇者専用の呪文である。
この呪文自体はそこまで難しくはない。
しかし古来よりその存在理由を疑われてきた。
確かに、呪文がかかっている間、攻撃は無効となる。
しかしながら、こちらも攻撃できないのでは何ら意味はない。
ただ時間を稼ぎやり過ごすことに何らかのメリットがあるという特殊な局面でもない限り
使用価値が無いのだ。
わざわざその呪文を開発した古代の勇者。
その目的については未だ学者の間でも定番のテーマとして研究されている。
『ふはは、なぁに、答えは簡単だ。みな歴代の勇者は使用方法を知ってはいても、
あえて言わなかっただけさ。はっはは、そりゃあ言わないよな普通は。
・・・アストロン。』
アストロンを局部だけに集約させる技術。
これは表の文献には存在しない。
勇者となった者だけに継承されるアストロンの真の顔である。
『す、すごい。さっきよりももっと固く・・・』
『さて、朝まで付き合ってもらうぞ、セリス』
『ああっ、ねぇちょっと待って、いくらなんでも、ね?こんな固いの・・んぁっ。あああ!!』
『ホント、お前かわいい声出すよな。その涙ぐんだ顔もたまらねーよ』
『ん!い・・いつもそんな、い、いじわるばっか・・・あああ!だめ気持ちいぃ!』
湖畔の夜は更けていった。
闇に完全に溶け込む黒装束と黒マント。
『いやホント、あいつまだヤってやがるよ』
『え、マジ?もう5時間くらいたってんじゃん!休みなし!?』
『勇者ってやっぱなんか秘密でもあんのか?俺なんてこんな鍛え抜かれたBodyなのに
3連発がやっとだよ・・・くそっ、うらやましい。』
『い、いや・・・あたしゃもう充分だよ。。。3発で充分腰ぬけそう。』
『あはは、久しぶりだったしなぁ。すっげーかわいかったぜ。』
『ん~うれし♪
・・・ところでどう?お相手はどんな子だった?』
『いやーかっわいー子だったなぁ。なんかセミロングの元気な感じの子。
イメージはソフトツンデレって感じ。年は17、8ってとこか?』
『やっぱり年下!ユウは絶対ロリコン気味だと思ってたんだよね~。
あたしに言い寄らないってあたりで既にロリコンだってずっと思ってたのさ~』
『え、いや、どっちかってーとお前も軽く少女的だと思うのだが・・・』
『何よそれ。わたしけっこ大人っぽいと思ってたのに。』
『どこがだよw お? おお?あいつらなんて体位でやってんだよw』 『てゆか君やっぱり忍者だよね。黒装束で、こんな暗闇で音もなく動いて覗きとかさw』
『違う!断じて違う!何度も言うようだが俺は武闘家だ。うちの流派はこうゆう装束を着るんだ』
『忍者だよね~それ。君賢くないから忍者なのに自分だけ武闘家だとずっと勘違いしてただけ
とかって落ちはないのかな?』
『な!失礼すぎるだろ!・・・ってあれ?もしかして子供っぽいって思われてたの怒ってる?』
『ん。多少。』
『えーと、その、ごめんなさい。』
『ん。』
ギュッとだきしめる黒装束。
『んん?』
身長の割によく育った胸に、マントの下から手を入れる。
『え、いやちょっとあの・・・3回もしちゃったのに・・・?』
『たまには・・・いいだろ・・・?』
『ん、・・・んぁ・・・君ちょっと強引すぎ・・ん』
『可愛いぜ。』 『むぅ・・・そんなことで許してあげな・・んっ・・・』 湖畔の夜は更けていった。 ■第一話 雪の少女
領主の娘、ミーシャはいつも花のような笑顔をふりまいていた。
そのミーシャを失って以来、領主は別人のように変わってしまった。
変わり果てていた。
彼は自然が好きで、休日は野山に娘を連れて遊びに行く。
他界した妻を想わせるその笑顔に、今という時の幸せさを感じる。
面倒見がよく、村の者たちにも気さくに声をかける。
普通なら煙たがられるような領主という立場ではあったが、
彼を慕う者は思いのほか多かった。
そんな彼はもういない。
人との接触は避け、館にこもりきりの日が多くなる。
領主の元へ、身寄りの無い少女が引き取られた。
彼女は屈託のない笑顔を振りまく。
その無邪気な明るいしぐさに、誰もがほほえましい気持ちになる。
領主にとって、そのすべてが癇に障った。
彼女が笑顔でいること、それそのものが不快だった。
少女は非常に真面目だった。
身寄りのない自分を引き取ってくれた領主様なのだ。
これまでうわさでしか聞いたことはなかったけれど、
誰から聞いても嫌な話は聞かない。
下の者にも分け隔てなく接する、いつも穏やかで心やさしい名君という話だった。
そして、一人娘を失ったということも、彼女は聞いていた。
それゆえに、少しでもお役に立てればと、そう思って必死に仕事を覚えようとしていた。
今日は朝の食事の準備の手伝いの仕事を教えられた。
他の使用人たちの指示のもと、せっせと仕事をこなす。
準備が整ったところで、領主を呼びに行くよう言われた。
軽い緊張が走る。服を整えて、失礼の無いように気を使い、
頭の中で何度も慣れない敬語を反復して練習した。
(よし、大丈夫。うまく言えるはず・・・。)
『失礼します。領主さま、お食事の準備が整いました。』
明るい笑顔で練習したセリフを言う。
(うん、うまく言えた。)
領主は椅子に座ったまま動かない。
その辺の中空をただぼんやりと見つめているようだ。
『?』
聞こえていないのかな?と小首をかしげる少女。
少しの間を置き、領主はようやくこちらに気づいたのか、
椅子からたちあがりゆっくりと少女の方を振り返る。
『領主様、あのお食事が・・』
『何故笑う?』
『え?』
まったく感情のこもらない領主の声に、彼女は急に背筋に冷たいものを感じた。
自分は何か悪いことをしてしまったのだろうか。
やっぱり田舎者である自分は知らぬ間に何か粗相をしでかしてしまったのだろうか?
ドン。
突如、領主は持っていた杖で少女の腹を力任せに突いた。
『ぐっ、はっ・・・ぐぅ』
思わずうめき声を上げる。何が起きたのかわからない。
『ミーシャが笑わないのにお前が何故笑う。』
冷たい目で見降ろされる。その顔が、ただ恐ろしくてたまらない。
ドン。
今度は頬を殴られた。衝撃で頭が壁に叩きつけられる。
『お前は二度と笑うな。いいな。』
そう言って、無言で立ち去っていった。
白髪の老人がいる。
彼は領主の父親である。
既に権力は息子に引き継いだ。
親馬鹿かもしれないが、客観的に見ても自分の息子ほどの人格者もいないと思っていた。
跡を継ぐにふさわしい者もいないと思っていた。
そう感じていた。自慢の息子だった。
まさかここまで息子が変わってしまうとは想像していなかったのだ。
息子は誰にも心を開かなくなり、実の父である自分にさえ辛く当った。
屋敷の外に出ることさえ息子に禁じられた。
今では老人も息子を恐れほとんどの時間を自分の部屋で過ごすようになってしまった。
どん!がらがらっ!がん!
廊下から音が聞こえる。
『お前、領主様を怒らせすぎなんだよ・・・いくら掃除してもまた散らかるじゃねーか・・・』
『す、すみません、んぁっ!すみませんっ!』
領主のヒステリーで倒れた棚。とびちったガラス。アザだらけの少女。それを踏みつける使用人。
この館では既に見慣れた日常の図となっていた。
たまらず老人は飛び出す。
『お前らまた!何をやっている!』
『は。もう何の権限も無いお前が言ってもどうにもならないが。
領主様もお前の言葉に耳なんか貸さないさ。』
『いいから・・・もうやめてくれ』
『はは。まぁいーや。いくよ。そこ、片付けときなさいね。』
大したことは起きていないかのような態度で立ち去っていく。
これだけ騒いでいるのだから、領主の部屋にも聞こえていそうなものだが、
何の反応もない。
『・・・おお、可哀想に。ああ、またこんなアザだらけに・・大丈夫かい?』
ぼろぼろの少女にかけよる。
『うん。平気。』
少女はこくんとうなずく。かすかに表情がゆるんでいた。
季節は巡り、冬となった。
この地はかなりの豪雪地帯だ。
寒さが凍りつくように増していくとともに、領主の心もいよいよ壊れ始めた。
既に日常と化した領主から少女への暴力。
少女を殴り、蹴り、少女はそれにただ耐える。
笑っても、泣いても、声をあげても殴られる。
少女はただ、なされるがままに、何も反応しないすべを身に付けた。
表情を変えることも、声を出すことも、そのやり方さえ既にわからなくなっていた。
暴力は、領主が疲れきって部屋に戻るそのときまで続いた。
領主が戻った時点で、ようやく使用人からのイジメが始まる。
これを耐えきれば一日分の試練は終わる。
老人は、決意した。
風もなくしんしんと雪が降り続ける冬のある日、老人は少女の部屋を訪れた。
これまでも、老人は少女のためにお菓子や少女が好みそうな本を持って訪れていた。
しかし、今日は違った。
老人は少女が唯一心を許す存在。
その老人が入ってきても、もう少女は微笑むことさえない。
言葉も、もう話せない。
アザだらけの少女は、ただ人形のように、宙を見つめるだけだった。
『ああ、お前はもう二度と笑うことは無いのだろうね。その笑顔を取り戻すことは、
何があってももう無理だろう。本当に・・・本当に・・・すまない。
しかしワシは、お前が再び笑うことは無理でも、せめて肉体の苦痛だけは、
取り戻してあげたいのだよ』
少女に反応はない。
老人は無言で少女の前に一枚の紙を差し出す。
そこには小さく文字が書かれていた。
『さあ、この文字を声に出して読んでみなさい。今のお前に最も必要な、
お前を助けてくれる魔法の言葉だ。』
少女に言葉が伝わったのか、少女は紙を受け取る。
『・・・ぁ・・・ぅぁ・・・』
長らく声を出していない彼女はうまく発声ができない。
『・・・あ・・・くぁうぁ・・』
『頑張れ。大丈夫、お前なら、絶対に唱えられる。』
『・・・・・・』
『・・・頑張れ!』
『・・・・・・・・ザ・・キ・・』
その瞬間、自分の体から何かが解き放たれたような、何かが飛び出したような、
そんな感覚を覚える。
と同時に、目の前にいる大好きなおじいちゃんの、目から鼻から耳から口から、鮮血が吹き出した。
『!!??』
『ぐはっ、はぁ、がはっ。はぁっ。・・・やっぱり、お前には使えたな。
この呪文は本当に簡単なんだ。ただその二文字を呟くだけで誰でも使うことができる。
ただし、本当に心の優しい者だけしか使えない。
神様ってのは本当に残酷だよなぁ。人を殺したその後で、本当に心が痛む者しか
こんな呪文を使えないなんて。
・・・この呪文でココから逃げてくれ。
そしてあのバカ息子を・・・殺して・・・楽にしてあげてくれ。すまない。』
『あああああ!!!うあああああ!!』
何時間がたっただろう。
おじいちゃんは、しんだ。
大好きだった、優しかったおじいちゃん。
私が殺したおじいちゃん。
私の言葉で。
どうしたらいいかわからず、何時間もただ死体にしがみついているだけだった。
少女の白い服は老人の血に染まり、赤と白がきれいにまじりあっていた。
ふいに少女は顔をあげ、何かを決意したように立ち上がり部屋を出て行った。
『・・・お前、今まで何をしていた。』
領主はそう言いながら杖で少女の頬を打つ。
(これが、領主様との最後のやりとり・・・)
そう思うと、すーっと一筋の涙が流れた。勝手にあふれ出たのだ。
『涙・・・? お前・・・泣いていいなど誰が許可した!』
思い切り振り上げる杖。そしてそれを振り下ろす。しかしそれが振り下ろされるその前に
『ザキ』
また、体から何かが飛び出すような感覚。
と同時に、目の前にいる領主の、顔中から鮮血があふれ出した。
『な・・・?あ・・・』
どさっとその場に倒れる領主。
あっという間の出来事だった。
あれだけ執拗に少女をいたぶり、罵り、表情も、声も、感情も、すべてを奪ったその元凶が、
一瞬前までは怒鳴りながら杖を奮っていたあの領主が、
こうもあっさりと肉の塊になった。
少女は歩き、領主の前に立った。
足元には真っ赤な血をまとって動かなくなった領主。 あの恐怖の対象が、ただ赤く動かない。 少女は右足を振り上げる。 ぐしゃ。
思い切り振り下ろされた右足が領主の顔面を踏み抜いた。 ぐしゃ。ぐしゃ。ぐしゃ。 ただ領主の顔面を踏むためだけに生まれた機械のように、 少女はただ同じ動作を繰り返した。 顔の形は既に無く、少女の足もヒビが入っていてもおかしくない。 いったい何分間繰り返しただろうか。 突如その動きが止まる。 ふいに少女は戸棚に向かって歩き、写真立てを手に取る。
そこには花のような笑顔の、領主の娘ミーシャが写っていた。
じっとミーシャを見つめる。
少女はそれを領主の手にそっと握らせた。 再び頬を伝う涙。 その涙の理由など、何もわからない。 少女はそれをぬぐうこともなく、ただ無言でその場を立ち去った。 少女は屋敷に住む全ての者に対し、領主に発した言葉と同じ言葉を呟いた。
一人残らず平等に。
少女は暖炉の火を屋敷に放つ。
小屋で見つけた、恐らくはミーシャのものであろう白いコートと手袋、ブーツを身にまとい、
真っ赤に燃える悪魔の城から白い雪の世界へと向かい、歩き始めた。
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