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~ 話、そんなにそらしたいならキスしてよ。 ~
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 ■第5話 対話

あたり一面真っ白な雪原の中の少し丘になっている場所に、その宿屋はあった。
こんな場所には利用客もまれにしか来ないようで、本日の客はこの3人だけだった。
おかげで貸し切り状態の宿屋では、通された部屋もこの宿一番のVIPルームだ。
『ちょ・・・これ、わたし広すぎてなんか落ち着かないんだけど。』
なんてことを言いつつ、全力でどでかいソファーに向かってジャンプした。
勢いあまってとんがり帽子が吹っ飛んでいく。
『すごっ!ふかふかー!』
上機嫌だ。
『おいおい、せめて荷物くらい整理してからにしろよな。』
『はーい。んじゃ荷物置いてくる!あっちあたしの部屋ね!!』
上機嫌だ。
・・・尊敬できる。
やはりこの女を選んでよかった。
『恋人が死んだ直後』にこれだけ明るくふるまえる精神力。
内心、不安でたまらないだろう。
俺はあらかじめ伝えている。
ザオラルの情報は不透明だと。
どこまで実用性があるか不明だと。
しかし、それでもそんなことを現時点で考えても何も始まらない。
やるべきことは、『可能性に賭けて行動すること』であり、『落ち込むこと』ではない。
そのために今できるとは、ゆっくりと休息をとり元気になることだ。
・・・そんなたぐいのことはいつも俺が言っていることだ。
理屈ではもちろん彼女はわかっている。
しかし理屈でわかっていてもできないのが、人間というものだ。
それが理屈に従ってここまでできる彼女を、俺は尊敬する。
そしてそれに報いるために、必ず生き返らせる。必ず。
 
バタン。
元気よく扉が閉められて向こうの部屋へはいって行った。
『・・・さて、ようやく落ち着いて話が聞けるな。』
そう言って目の前にいるさるぐつわをされた白い少女に話しかける。
『・・・』
当然のごとく、無言の上目使いでこちらを見上げる。
『まぁ、すわりなよ。』
自分も腰かけながら隣の椅子を指差す。
彼女は、意外にも素直に椅子に座る。
『さっきから言っているが・・・俺はお前の考え方を知りたいんだ。
  この村での大量虐殺は、お前のザキによるものなのだろう?
  それは何を考えての行動なのか。それを教えてくれないか?
  お前はどうやら言葉は不自由なようだが、字はかけるか?』
宿屋に備え付けのペンと紙を差し出す。
一瞬紙をじっと見つめて動きがとまる。
再度ユウを見上げる。
『まずは俺の目的を話そうか。』
ユウは真面目な表情でゆっくりと語りだす。
『俺は、世界を・・・何とかしたい。
  まずは理想を言えば、無理とはわかっていても、全ての人が幸せである世界がいい。
  だからまずはそれを考えていく。
  それで無理なら、できるだけ多くの人を。
  そのために、どんな方法があるのか、どれがいいのか、それは現時点の俺ではまだわからない。
  もちろん、現在進行形で日々考えている。
  いろいろな情報を集め、様々なやり方を見聞きし、検討している。
  世界をどう変えるべきなのかは、まだわからない。
  わかっているのは、どんな方法にしろ、『力』が必要だということだ。
  暴力に屈さないだけの『暴力』と、
  金に潰されないだけの『財力』と、
  他の追随を許さない圧倒的『カリスマ』。
  これは、方法論を問わず、絶対的に必要だ。
  俺はまずこれを手に入れるために、行動している。』
少女はユウを見上げたまま動かない。
その表情は、興味を持ったようにも、ただ眺めているだけのようにも受け取れる。
『教えてくれ。お前のことを知りたい。』
『・・・』
勇者の何かが彼女を動かしたのか、少女は左手の手袋をはずす。
そしてペンを握り文字を書き始めた。
お世辞にもうまい字とは言えなかった。
おそらく、あまり教育も受けれていないのだろう。
下手どころかところどころ鏡文字になっている字もあり、それは4、5歳の子供の文字だった。
彼女は書き終わり、ユウの方にずいっと紙を差し出した。
そこにはこう書いてあった。
「世界中の全ての人を、楽にしてあげる」
ユウは彼女を見つめる。
それは本音だ。
本心から思っている。
どんな経緯でそこに至ったかは知らない。
ただ彼女は、それが解決策だと考えている。
だからこそ、ザキの絶対条件、「人の幸せを願う者」を満たしているのだ。
だからこそ、これだけザキを使ってもザキを使えるのだ。
 
『おまたせー。あれ、何?ひょってしてまさかもうわかりあえちゃったの?』
『うーん、まだこれからだな。今はちょうど一歩目を踏み込めたところだよ。』
少女はまだ続きを言いたいのか紙をもう一度引き寄せ、不器用そうにペンをとる。
しかしペンを持つこと自体慣れないのか、ぎこちない動きで床に落としてしまった。
『ああ、字を書くのに慣れてないんだろ?ごめんな、無理を・・・』
彼女が外していたのは左手の手袋だ。
右手はそのままだ。
何故右手は外さなかったのか。
左利きだから?
左利きでも、普通は両手を外した方が書きやすい。
確かに極寒の外から帰ってまだ間もない。
手が冷たかったというのは一理ある。
字がへた?
鏡文字?
 
ユウがペンを拾おうと、かがんで床に手を伸ばす。
その下がった頭に合わせて彼女の手刀が飛ぶ!
ユウは未反応。
外から見ていた魔法使いはソレに気づいた。
(あ、あれは手刀じゃない!)
手袋の中に隠し武器。
そう、彼女はどの状況からでも「人の幸せを願って」いたのだ。
右の手袋の中から伸びた果物ナイフがユウの右眼球を直撃する!
と思われたその刃を、ユウは間一髪回避する。
が、かわしきれず、ユウの右耳を半分削ぎ落していた。
 
ユウはそのまま右腕をとり少女の背中にまわし、ナイフを奪いつつ逆間接を決める。
ごきっ!
右肩の関節を外した。
『あああああ!!っっっ!!』
どっ!
少女の悲鳴をかき消すように、少女の腹を蹴りあげ壁に押し付ける。
どんっという音とともに壁に張り付き、少女は左腕を壁側に上げて、外れた右腕がだらりと
下にさがっている状態になった。
そのままがくんと崩れそうになるスキを逃さない。
ユウはその左手に向かい躊躇いなく、なんと果物ナイフを突き刺した。
果物ナイフは、左手の手のひらを貫通し、壁に突き刺さり固定される。
『ぃぃああああ!!!!ぁぁ!!!!!!!!!』
さるぐつわなどものともせずに、声にならない叫びが部屋中に響く。
ほとんど意識を失いかけた少女はがくっと膝が折れる。
しかし打ちつけられたその左手が、倒れることさえ許さない。
『!!!!!』
自分の体重にひっぱられた彼女の手のひらの苦痛は、もう声では表現できるものではなかった。
生気を失ったように顔は下をうつむき、
右腕はだらりと下げさせられ、
右腕を上げさせられる少女。
 
ユウはそんな彼女の顔を掴み、力いっぱい壁に叩きつけ、そして叫ぶ。
 
『認めろ!!お前は弱い!俺一人殺せないお前の力では、世界の全ては殺せない!』
『!』
 
初めて反応した。
今まで何の言葉にも反応しなかった少女が、初めてユウの暴力にではなく言葉に反応した。
『俺は必ず手に入れる!絶対的な、暴力と!財力と!カリスマを!
  お前に足りない全てを、俺が手に入れてやる!
  その時に、何をなすべきかはまだ分からない。
  お前のやり方で、全ての人を楽にするのがいいのかもしれない。
  民主的なやり方がよいのか、恐怖による完全統治がよいのか、
  それともまったく新しい何らかの政策があるのか。
  それは現時点ではまだ分からない。だから・・・』
少女は苦痛をこらえ、真剣に話を聞いていた。

 
『だからそれまで・・・俺といっしょに考えていかないか?
  どうしたら人が幸せになれるのかを。』
 
 
じっと見つめる。
強い、瞳で。
絶対の自信と覚悟。
物言わぬ少女は、その瞳に何を想ったのか。
少女はただ見つめ返していた。
一瞬前の苦痛に悶えている弱い瞳ではなく、
彼に負けぬほどの強い瞳で。
 
『俺と、いっしょに行こう。』
『・・・』
少女はこくんとうなずいた。
 
 
 
 
『ホント、もう、ここまでやんなきゃだめだったわけ~?』
黒帽子を脱いだ黒マントの女は一安心しつつも不満そうな声を上げながら後片付けをしている。
『無理だったんだよ。俺こんなんに・・・あ!それ俺の耳!捨てんな!』
『え!?きもっ!ちょっと、こんなん触らせないでよ!!・・・』
『ったく、そこおいとけよ。あとでくっつけるんだから。まずはコイツのが先だな』
ナイフを強引に外す。
『・・・・!!!』
戦闘が終わり、気が抜けていたのか。
その表情は先ほどまでの狂犬の表情とは異なり、
まるでよわよわしい子猫や子ウサギのそれだった。
『ホイミ』
ユウは優しく左手の手のひらに添える。
止めどなく流れていた赤い濁流が、すーっと止血される。
まだ傷口は完全には治っていないが、直ぐに回復個所を右肩に変える。
折れた肩関節が元に戻った。
『これでよし。他の傷は大したことはないだろう。
  べホイミを使えば完全になおるだろうが、あんまし回復魔法ってのは体に良くないからな。
  自然回復する力を弱めちまう。
  これからも戦闘中にどうしても使わなきゃならないことはあるしさ。
  できるだけ節約しないとな。
  しばらくかなり痛むだろうけど、がまんできるか?』
『・・・(こくん)』
かなり戸惑ったように、ぎこちなくうなずく。
がまんできるかどうかで戸惑ったわけではない。
回復魔法を節約することに対する疑問ではない。
ただ、彼女はホイミをかけられたことが初めてだったのだ。
『よし、偉い子だ。』
ユウはそういってさるぐつわを外し始める。
 
散らばった椅子なんかを戻していた黒マントはびくっと反応する。
(だ、大丈夫かな?今日三度だよ、三度。
 銃で脅して大丈夫と思ったらザキ。
 マホトラでMP無くして大丈夫と思ってもザキ。
 さるぐつわして大丈夫と思っても隠し武器。
 ・・・ううん。ユウについていく覚悟はとっくに決めたんだし。
 ユウもそのリスクをわかった上で、「わかりあえたと信じたい」んだろうし。
 ・・・もう、鬼のくせに甘いんだから。)
 
さるぐつわを外された少女は、意外そうな表情をする。
『さっき、俺の台詞にうなずいてくれたけど・・・』
と、ユウは話し出す。
『これは、大事な始まりだから。だから、ちゃんと、お前の言葉で聞きたいな。』
『・・・』
『ザキやマホトラは言えただろ?だったら声を出せないってわけじゃないはずだ。
  複雑な生い立ちはあるのかもしれないが・・・これからずっと一緒にがんばってくんだ。
  少しずつしゃべれるようになった方が楽しいぜ?
  まずは・・・「うん」と「ううん」くらいは言えるようになってみるか。
  コミュニケーションは大事だからな。できるか?』
『・・・』
少女は困ったように微妙な角度に首をかしげる。
無理というわけじゃないけどできるとはいえないといったような角度で。
『じゃー、やってみよう。これから、大事なことを言うから、ちゃんと返事をしてね。』
『・・・(こくん)』
少女は素直にうなずいた。
 
『お前ほどの女は初めてだ。こんな精神量をもった器は。
  俺は今日一日で、お前から本当に多くのことを学んだ。
  感謝してもし足りない。
  今度は俺が、おまえに返したい。
  だから・・・』

『だから俺の女になれ』
『!?』
(!?)
 
空気を読んだ女魔法使いは音もなく、ぴゅーーーっと隣の部屋へ消えうせた。
(なんであたしがいるってわかってんのに告白すんのよ!
 せめて二人のときにしなさいよ!
 ってゆーか・・・マジで?
 あのコ何歳?16,7?下手したらもっと若いかも。
 ・・・やっぱりロ・・ロリコン・・・?
 ええー!?あんな子供と、や・・・やる気なの彼は!!
 こわっ!!こわっ!!
 確かに顔はすっごく可愛いけど!すっごく可愛いけど!!
 でもあと5年は育てたい感じじゃない!?
 でもそんなにユウが待つとは思えないし待つわけないし・・・下手したら今日中に??
 ・・・ああああーー!君こんなときに何死んでんのよー!!
 不安だよー!ロリコンと一緒にいるの不安だよー!!
 あああ、大丈夫だったかな、アイツについてくって賭けて良かったのかな?
 うあああーー、早く生き返ってー! 一人じゃ自信なーい!)
 
少女はよく状況が飲み込めないのか、頭の上にクエスチョンマークが浮いているようになっている。
『もっとわかりやすく言おうか。
  好きだ。だから一生俺の隣にいてほしい。』
『・・・』
よーく見なければわからない。
が、よーく見ると、ほんのわずかにその白い頬に赤みがさしていた。
勇者たるもの、その変化は見逃さない。
(よ、よし、効いている!)
『どうした?俺は本気なんだ。本気の想いに、返事もなしか?』
『・・・ぅ~・・・』
かすかにもじもじしている少女。
『10秒待つ。それまでに返事をできなければ、この話は無しだ。』
『っ!?』
『最後だ。もう一度言う。
  俺の・・・永遠の恋人になってください。』
『!』
もう良く見なくとも、桃色のほっぺたになっていた。
『8・・・7・・・』
『!!!』
ユウは強く見つめる。
少女はもう真っ赤だ。
そして焦りも見える。
『6・・・5・・・』
何かのチャンスが失われようとしている。
しかしそれを得ることが本当にチャンスなのか絶望なのか、判断できない。
判断する時間さえない。貰えない。
『4・・・』
どうしていいかわからなくなってくる。
ただ・・・今まで私に愛を語ってくれた人なんて・・・
『3・・・』
そしてそれよりも・・・「私と同じ願い」を持つ人。
違いは「やり方」だけ・・・。
『2・・・』
もし「殺す」以外のやり方が見つかるならば・・・。
それを「一緒に考えていく」人がいるならば・・・。
『1・・・』
彼女は一歩前に出た。

『・・・はい。』
 
そういってユウの胸に飛びついた。
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